炭鉱での崩落事故は、不幸としか言いようがない出来事であった。
 僕は王族の代表として、現場に赴くことになった。そういった時に動くのは、基本的に僕の役目になっていたのだ。

 現場では、様々な作業が行われていた。
 王国が派遣した団体や、ボランティアなどによって、後始末や捜索がなされているのだ。
 その現場で、僕は知っている顔を見つけた。先日見たその少女は、不安そうな顔で炭鉱を見つめている。

「……イルティナ嬢」
「え? あなたは……」
「初めまして、ドルギアと申します」
「あ、イルティナ・アーガントです」

 僕は、とりあえずイルティナ嬢に声をかけてみることにした。
 すると彼女は、驚いたような反応をした。それは当然だ。僕達は別に知り合いという訳でもない。この場で話しかけるような関係性ではないのである。
 しかし僕は、そもそもイルティナ嬢がここにいるということが気になっていた。そのため、話しかけて事情を聞きたかったのだ。

「アーガント伯爵家のご令嬢が、どうしてこちらに? もしかして、誰か知り合いが巻き込まれたのですか?」
「……ええ」
「そうですか……」

 僕の質問に対して、イルティナ嬢はゆっくりと頷いた。
 当然のことながら、その回答は明るいものではない。それに僕は、何も言えなくなってしまう。
 イルティナ嬢の口振りからして、知り合いはまだ炭鉱の中にいる。それが何を表しているかは、言うまでもない。

「グラットンさんという方なんですけど……」
「……この間話していた人ですね?」
「あ、はい。えっと、聞いていらっしゃったのですか?」
「ええ、近くを通りがかって……そうですか。仕事が決まったというのは、ここのことでしたか」

 イルティナ嬢の言葉に、僕は炭鉱の方を見つめていた。
 彼女の知り合いであるグラットンさんのことは、僕も知らない訳ではない。慈善活動の場で、何度か見たことがあるからだ。
 ただ、そんな彼のためにわざわざイルティナ嬢が駆けつけて来たということは、少し意外だった。そこまで深い関わりだったのだろうか。

「グラットンさん、家族もいないらしくて……もしも見つかっても、誰も迎えには来てくれないかもしれないんです」
「それで、イルティナ嬢が?」
「ええ、グラットンさんから故郷のことは聞いていますから、そこに連れて帰ってあげようと思いまして……」
「なるほど、イルティナ嬢はお優しい方ですね……」

 イルティナ嬢は、悲しそうな顔をしながらそう言った。
 その表情に僕は、彼女の慈愛のようなものを感じたのだった。