婚約の話が決まって、私は王城に赴こうと思っていた。
 ドルギア殿下本人と、この件について話すべきだからだ。
 そのことについて、私はお父様と通じて王家に連絡を入れてもらった。するとドルギア殿下から、自分の方から、アーガント伯爵家を訪ねるという返答があった。

 という訳で、今私の目の前には、ドルギア殿下がいる。
 遠路遥々、アーガント伯爵家を訪ねて来てくれたのだ。

「ドルギア殿下、今日はありがとうございます。わざわざご足労、いただいて……」
「いえ、こういうことに関しては、僕の方から動くべきだと心得ています。お気になさらないでください」

 ドルギア殿下は、とても紳士的な発言をしてくれた。
 こういう言い方をするのは良くないのかもしれないが、ブラッガ様とは大違いだ。
 そういう人だからこそ、私は婚約できて嬉しく思っている。それなりに親交もあった訳だし、本当に良き縁談に恵まれたものだ。

「ドルギア殿下、今回の婚約、私はとても嬉しく思っています。まさか、ドルギア殿下と婚約できるなんて、思っていませんでしたが……」
「僕も、イルティナ嬢との婚約は嬉しく思っています」
「そう言ってもらえるのも嬉しいです……所で、ドルギア殿下は今回の話がどこから出たものなのか、ご存知ですか?」
「え? えっと……」

 私が喜びを伝えた後にした質問に、ドルギア殿下は目を丸めていた。
 それから彼は、ゆっくりと目をそらす。これは何か知っているが、言うことができなくて困っているという反応だ。

「……イルティナ嬢とは、様々な場で何度も顔を合わせていましたが、その時からずっと素敵な方であると思っていました」
「ありがとうございます」
「イルティナ嬢との婚約は、頭の片隅で考えていたことではあります。しかし、考えている内にイルティナ嬢の婚約が決まってしまって……」
「ああ……」
「ですから、こうして改めて機会が巡ってきたことには感謝しています。僕はイルティナ嬢と結婚できたらいいと、ずっと思っていました」

 ドルギア殿下は、意を決したような表情でそう言ってきた。
 それは暗に、自分が今回の婚約を提案したと言っているような気がする。
 彼の言っていることは、恐らく本当だと思う。こういうことに関して、ドルギア殿下は嘘をつく人ではないからだ。

 ただ、心が完全に籠っていないような気もしてしまった。
 ドルギア殿下も、誰かを庇っているのではないだろうか。私の頭の中には、そのような思考が過ってきた。

 とはいえ、ドルギア殿下の言葉はとても嬉しいものではあった。
 私も気持ちは同じだ。できることなら、ドルギア殿下と婚約したかった。
 もしかしたら私達は、お互いにそういった気持ちを持っていることを察し合っていたのかもしれない。