「何故呼び出されたかは、わかっているな?」
「……先日の第三研究所のことですか?」
「ああ、勝手に抜け出して、心配したぞ。しかもそこでお前は、手を出したな?」
「先に手を出したのは、あちらの方です」

 第三研究所の件は、当然のことながら問題となった。
 あれから所長は、記憶に関する障害に苦しめられているらしい。

 私としては、いい気味だとしか思えない。そもそも、あちらが余計なことをしなければ、こうはならなかった。自業自得である。
 しかしながら、人に対して魔法を行使するのは場合によっては犯罪だ。それが問題になったといった所だろうか。

「もちろん、それはわかっている。だが、お前のやり方は短絡的過ぎだ。諸々の事情も含めて、今回は情状酌量となったが、次はこうはならないかもしれない」
「もっと上手くやれと、お父様は言いたいのですか?」
「……少なくとも、このように直接的に危害を加えるのは感心しない」

 第三研究所が悪かったということは、お父様も承知しているのだろう。その表情は、なんとも微妙なものだった。
 厳しいような態度を見せることはあるが、お父様は基本的に親馬鹿だ。お姉様に危害を加えようとしていたり、私を手に入れようとしていたりしたあの所長に対して、何かしらの策を行使していたのかもしれない。

「お父様がそのような考えなのは、助かります。しかし、私は今回の件で一つだけ学びました」
「一つだけ、なのか?」
「ええ、それは私の存在がお姉様の危険に繋がるということです」

 あの所長は凡人であり、私に与えられるものなんて一つもないと思っていた。だが今回の件を通じて、あれは私に重要なことを教えてくれた。
 お姉様は、私の弱点として狙われてしまうのだ。伯爵家の令嬢に手を出したらどうなるのか、それをわかっていても、私の偉大なる才能は相手の判断すら狂わせる。

「私には怖いものなどありません。理不尽には理不尽で対抗していくつもりです。自分のわがままも通します。なぜなら私には、それができるだけの力がありますから」
「……」
「しかしそれでも、万が一ということが怖い。お姉様に危害を加えられる。その事実だけで、足が震えるのです。お姉様に抱きしめて慰めてもらいたい。でも、それはやめておきます。仲の良い姉妹でいたら、またお姉様が狙われるかもしれないから」

 考えてみれば、最初からそうだったのだ。
 私という存在が傍にいると、お姉様を傷つける。命の重みを知ったあの日、私はそれを認識するべきだった。

 だけど結局私は、今となってもお姉様との関係を断ち切れていない。
 私はどこまでも弱い人間だ。本当はわかっている。私も愚かな凡人の一人でしかないのだということを。