「……あなた達は、何者ですか?」
「え、えっと……」
「僕の名前は、ドルギアといいます。わかっているとは思いますが、このディルモニア王国の第三王子です。それを前提に、話をしてください」

 お姉様と研究機関の職員達との間に割って入ったドルギア殿下は、自分の身分を明かした。
 その瞬間、職員達はたじろいだ。明らかに動揺している。それは相手が王子だからというだけには見えない。やはり、何か悪いことを考えていたのだろう。

「ドルギア殿下、我々は魔法第三研究所の職員です」
「第三研究所? その職員が、彼女に何の用です?」
「イルティナ嬢の妹君であるエルメラ嬢に関して、少し話をしたかったのです。別に他意はありません」
「……そうですか」

 職員達の説明に、ドルギア殿下は納得していないようだった。
 それは私も同じだ。あの人達は、何か良からぬことを考えていた。
 そうでなければ、わざわざお姉様に話しかけたりしないだろう。私本人と話をすればいいだけだ。

「しかし妙ですね。第三研究所は、エルメラ嬢に研究協力の要請を断られたと聞いていますが」
「……お耳が早いですね。私達は、そのことに関するお願いに来たのです」
「……貴族とはいえ、未成年のイルティナ嬢に対して、こんな大勢でお願いに来たのですか? それはなんとも、無神経ですね?」
「それは……」

 ドルギア殿下の指摘に、職員達は一瞬目をそらした。
 仮に彼らが、本当にお願いに来たとしても、あの人数の大人が子供を囲むとどうなるのかは、明確である。ドルギア殿下の指摘は、もっともだ。
 ただ、彼らが目をそらしたのはそれが図星だったからだろう。何の目的かは知らないが、彼らはお姉様に圧をかけようとしていた。それは私にとって、とても許せないことだ。

「……話があるなら、私がお伺いしますよ」
「エ、エルメラ嬢……」
「あなた方が何を考えているのかは知りませんが、私の日常を脅かすようなら、容赦はしませんよ?」
「……申し訳ない、我々はこれで失礼します」

 私が出て行くと、少し焦ったような様子で職員達はその場から去って行った。
 私への話をしたかったはずなのに、私が出て行ったら逃げ出す。そんな行動をする時点で、彼らに何かしらの悪意があったことは明らかだ。

「あ、えっと、ドルギア殿下、ありがとうございました、助けていただいて」
「いいえ、お気になさらないでください、イルティナ嬢。それでは僕も、これで失礼させていただきますね?」
「あ、はい」

 お姉様からお礼を言われたドルギア殿下は、何もなかったかのように明るい笑顔を返した後、その場を去って行った。
 それからお姉様は、私の方に視線を向けた。その目はどこか、不安そうだ。

「エルメラ……大丈夫? なんだか、怪しい人達だったけど」
「ええ、私は大丈夫ですよ。でも、これは少し問題なのかもしれませんね。お父様に厳重に抗議してもらいましょう」
「そうしてもらった方が、いいでしょうね」

 お姉様は、私のことをそっと抱き寄せた。
 その温もりを感じながらも、私は考えていた。これから、どうしていくべきなのかを。