婚約者であるブラッガ様の元を訪ねた私は、自分がそれ程歓迎されていないということをすぐに理解した。
 ブラッガ様はもちろん、両親であるパルキスト伯爵夫妻、彼の兄であるバルクス様も、私に対して良い態度ではなかったのだ。
 特に、パーキスト伯爵夫人はひどい。彼女は嫌そうな表情を露骨に見せて、まるで私のことを威嚇しているかのようだ。

「あーあ、いや、遠路遥々よく来てくれたと言うべきか」

 一家の中では、パルキスト伯爵は比較的マシな方だといえるだろう。
 彼は一応表面上は、私を歓迎しようとしている。もちろん心の中ではそうではないということが、わかるくらいには態度に出ているが、それでもこの場にいるブラッガ様や婦人と比べれば、良い方だ。

「しかしながら、正直我々は驚いている。アーガント伯爵家を継ぐのは、てっきり君の妹君だと思っていたからな」
「それは……」

 伯爵の言葉に、私は何故彼らがこのような態度であるかを理解した。
 彼らが求めていたのは、エルメラとの婚約だったのだろう。
 それは考えてみれば、当然かもしれない。あの優秀な妹との婚約は、家に利益をもたらすだろう。私なんかとは、比べ物にならないくらいに。

『結婚……増してやアーガント伯爵家を背負うなんて、私はごめんです。そんな下らないことよりも、やるべきことがありますから』
『やるべきこと……』
『そんな下らないものは、お姉様が背負ってください。まあ、私の成果はアーガント伯爵に還元してあげますから』

 しかしながら、エルメラにとっては婿を迎える立場になるというのも、無駄な時間であるそうなのだ。
 お父様やお母様だって、優秀な妹にアーガント伯爵家を任せたかっただろう。ただ立場の強い妹の言葉は受け入れるしかなく、私がそういう立場になった。きっとそんな所だろう。

「……あなた、物事ははっきりと言うべきではありませんか?」
「む……」

 私が色々と考えていると、パルキスト伯爵夫人が口を開いた。
 彼女は、私をその釣り上がった猛禽類のような鋭い目で睨みつけている。その目線で、私はこれから何か不快なことを言われるのだと理解した。

「イルティナ嬢は、ブラッガの婚約者として相応しくない。そうでしょう?」
「それは……」
「ブラッガ、あなたもはっきりと言ってやりなさい」
「ええ、母上。言われずとも、元よりそのつもりですとも」

 パルキスト伯爵夫人の言葉に、ブラッガ様は口の端を釣り上げた。
 どうやらこの母子は、似た者同士であるらしい。その嫌味な顔を見ながら、私はそのようなことを思うのだった。