「エルメラ嬢、あなたには偉大なる才能がある。その力をこの国のために、是非役立てて欲しい」
「……まあ、別に構いませんよ」

 幼少期のある時に、私は新たに開発した魔法が認められて、国の研究機関なるものに呼び出されることになった。
 国のために私の才能を活かして欲しいという要望に対して、私はとりあえず頷いた。国のために働くことが、人々を助けることだと思っていたからだ。

 別に私は、私や家族さえ幸せならそれで構わない。
 ただ、私の親愛なるお姉様は、人々の幸せを望んでいる。お姉様は困っている人を見ると悲しそうな顔をするし、必ず手を差し伸べる人なのだ。
 だから私も、人のために働こうと思っている。具体的には、この偉大なる才能によって、人々の生活を豊かにしたいのだ。

「あなたの才能を磨くためには、然るべき場所……具体的には、こちらで研究に集中した方がいいと思います」
「……?」
「ご両親には、こちらからお伝えしますから、是非ここで暮らして、好きなだけ研究してください。必要なものは、こちらが全て用意します。あなたはその才を振るうことだけに、集中していればいい」

 目の前にいる偉いらしい人の言葉に、私は首を傾げることになった。
 こんな所で暮らして、一体何が学べるというのだろうか。私にはそれがまったくわからなかったのだ。

「すみませんが、私は家に帰ります」
「……何故、ですか? あなた程に賢い方なら、わかっているでしょう。ここがこの国で最も効率良く学べる場所だということが。ここには優れた研究者がいるし、資料もある。ここにいれば、あなたは数多の魔法を開発できる」
「お言葉ですが、それは私が今の生活を捨ててまで欲しいものではありません」

 私は人々のためにこの偉大なる才能を振るうつもりではあるが、それは別に最優先事項という訳でもない。
 勉学や魔法の研究だって、好きではあるが、目の前の人程に熱意がある訳でもない。楽しくて、報酬も得られるからやっている。それだけだ。
 私が優先するのは、あくまでお姉様や両親との生活である。身を粉にして働こうとか、そういった考えは私の中にはまったくない。

「まさか、あなたのような才能を持つ者が、両親や家族が恋しいというのか? そんな者達と一緒にいても、君の才能は磨かれない」
「……あなたはそうだったのかもしれませんね」
「……何?」
「あなたは才能のない凡人だったから、環境を言い訳にしていたのでしょう? 私は天才ですから、どんな場所でも成果を出せます。少なくとも、あなた以上の成果を、です」

 相手があまりにもしつこいため、私は少し強い言葉を発してしまった。
 すると目の前の偉い人は、目を丸めている。やはり不快に思ったのだろうか。
 しかし、その方が私にとっては都合がいいかもしれない。嫌われてこれ以上付きまとわれなくなるなら、私にとっては何よりだ。

 その時の私は、この出来事をそんな風に呑気に捉えていた。
 それが間違いであると気付けなかった私は、愚かだったといえるだろう。