ドルギア殿下のことを話した時に、お姉様はまんざらでもないような表情をしていた。
 彼が人格者であり、後ろめたいことなどがない人であるということは、知っている。お姉様と関わっていることを知って、その辺りについては調べたからだ。
 だからお姉様が彼と仲良くなって、結果的に婚約したとしたら、祝福するべきであるだろう。それ所か、私が手回ししてもいいのかもしれない。

「不愉快です」
「あらまあ……」

 私の言葉に、お母様は苦笑いを浮かべていた。
 お母様は私と違って、お姉様とドルギア殿下が懇意にしているということは、喜ばしいことなのだろうか。それがなんとなく表情から読み取れる。

「エルメラは、本当にイルティナのことを慕っているのね……」
「ええ、そうですけど」
「でも、姉離れとか、そういうことをしてもいい時期なのではないかしら?」
「これでも、しているつもりですよ」
「まあ、そうなのかしらね? 一応、婿を迎えることは認めた訳だし……」

 アーガント伯爵家は、お父様やお母様、それにお姉様が守りたいと思っているから、守るべきであると考えている。
 だから、この家を存続させるためにお姉様が婿を迎え入れるということについても、渋々ながら納得した。
 ただ一度納得したはずの事柄は、あの愚かなるパルキスト伯爵家の次男によって、蒸し返されることになった。今の私がもう一度そのことに納得するのには、少し時間がかかる。

「あのパルキスト伯爵家の次男……名前はもう忘れましたが、もうあのような男にお姉様が弄ばれるなんて、ごめんです」
「まあ、その辺りはあの人もわかっているから、婿選びには前よりも一層慎重になると思うわ」
「その点、ドルギア殿下は信頼できます。王家も良い人揃いですからね」
「王子との婚約なんて大それたことができるかは置いておいて、そういうことなら、問題はないのではないかしら?」
「だからこそ気に入らないんですよ。認めなきゃいけないじゃないですか」

 もしも仮に、ドルギア殿下の方がその気になって婚約をもちかけてきたとしたら、アーガント伯爵家には断る理由もないし、その婚約は成立するだろう。
 ドルギア殿下や王家は、あの愚かなる伯爵家のような者達ではない。もしも一度決まれば、その婚約が揺るぐことなんてないだろう。

「もしもの時は、慰めてくださいね、お母様」
「それはいいけれど……まだ、何一つとして決まっていないわよ?」
「いえ、私が王家に働きかけますから……ドルギア殿下以上にお姉様に相応しい婚約者なんて、いないでしょうし、ね?」
「あなたも難儀ね……」