「エルメラ、あなたもやはりアーガント伯爵家を侮辱したパルキスト伯爵家のことが、許せなかったのかしら?」
「……」

 私が疑問を口にすると、エルメラは笑うのをやめて真剣な顔になった。
 彼女は、鋭い視線をこちらに向けてきている。その迫力に、私は少し気圧されてしまう。

「アーガント伯爵家の誇りなんて、私にとっては興味がないものです。それはお姉様にも、何度もお伝えしたと思いますが……」
「でも、あなたがパルキスト伯爵家にしたことがただの道楽だとは思えないわ。何か理由でもないと……」
「お姉様は、私のことを買い被っているようですね? 私はただ、出先で面白そうなことがあったから突き止めただけです」

 エルメラは、私の質問をはぐらかしてきた。
 その表情には、笑みが戻っている。その一瞬の真剣な表情は、何を表しているのだろうか。

「お姉様、なんというか変ですよ? いつもは、そんな風に食い下がってこないのに」
「それはその……」
「王都で何かあったのですか? ああそういえば、最近第三王子と仲が良いとか、風の噂で聞きましたが……」
「ま、まあ、仲良くはさせてもらっているけれど……」

 エルメラの言葉に、私は驚くことになった。私とドルギア殿下のことなんて、把握しているとは思っていなかったからだ。
 一体、誰からそんなことを聞いたのだろうか。はっきり言って、エルメラはパルキスト伯爵家に行くまでこの屋敷からあまり出ていなかったし、情報を仕入れられる暇があったとは思えないのだが。

「ドルギア殿下は、人格者であるようですからね。仲良くしておいて、損はないとは思います。この国の王族は良い人達ばかりですから、そういった面についても安心できますね」
「ああ、あなたは王族とも繋がりがあったわね……あの、エルメラ? なんでそんなに、嫌そうな顔をしているの?」

 ドルギア殿下のことを語るエルメラは、いつにも増して不機嫌そうな顔をしていた。
 良い人であると言っているのに、なんでそんな嫌そうな顔なのだろうか。その一致しない言動には、思わず困惑してしまう。

「まあ、別にお姉様が誰と仲良くしていようと、私は構いません。でも、もしも仮にその方と何かしら特別な関係とかになるとしたら、その前に私やお父様やお母様に話を通してくださいね」
「え? いや、ドルギア殿下とはそんな関係では……」
「仮にの話ですから、そこまで深刻に考えてもらわなくても結構です。そのまんざらでもない反応を今すぐやめてください」

 何故かわからないが、エルメラは大変に怒っていた。
 その怒りに、私はもう黙って頷くことしかできなくなっていた。
 しかも結局、パルキスト伯爵家のことを満足に聞けた訳でもない。優秀な妹に、私は上手くはぐらかされてしまったのだった。