命の重さを巡る一件があってから、私はお姉様に対して深い愛情を抱くようになった。
 いやそもそもの話、それはきっと私の根底に存在していたものだったのだろう。あの件によって、それを自覚したという方が正しいのかもしれない。
 なぜなら私は、物心ついた頃からお姉様と話したり触れ合ったりすることに対して、嫌だとかそういった感情は抱いていなかったからだ。

 それがお姉様といることが楽しいのだと理解するまでは、時間がかかってしまった。
 偉大なる天才である私は、普通の子供より聡い代わりに、そういった当たり前のことに気付くことができなかったのだろう。

「……お姉様、私は今すごく楽しいんです」
「あら、そうなの?」
「ええ、少し前までと比べて、なんだか幸せで……すごく不思議な気持ちです」
「そう……それはいいことね」

 家族の温もりというものを気づかせてくれたお姉様には、感謝しても仕切れない程の恩がある。
 同時に、その一件について負い目を感じていた。一歩間違えれば、大切な存在を失っていたという事実に、私は改めて恐怖を抱くことになっていたのだ。
 だからこそ、私は魔法の技術をより一層磨くことにした。そうすることによって、お姉様を守ることにも繋がると思ったからだ。

「私も、毎日が幸せだわ。エルメラと一緒だもの」
「ありがとうございます、お姉様」

 お姉様は、いつも私の頭をゆっくりと撫でてくれた。
 それが私は、とても嬉しかった。お姉様と触れ合うということに、私は激しい喜びを覚えていたのだ。

「ああ、そうだ。お姉様、実は私、今日新しい魔法を思いついたんです」
「新しい魔法?」

 魔法に限らず、私は勉学というものが好きだった。
 新たなる知識が身に着く。それはなんとも、素晴らしいことだ。
 ただ、最も楽しいのはお姉様に対してその成果を報告する時である。お姉様に話を聞いてもらって、褒めてもらう。それが私の至福の時だ。

「これは、モンターギュという魔法使いがかつて構築した魔法を私なりに再構築したものなのですが……」
「モンターギュという魔法使いは、聞いたことがあるわね。確か、ディルモニア王国の中でも有数の魔法使いだと聞いているけれど……」
「確かにモンターギュは優秀な魔法使いではありましたが、私の方が偉大な魔法使いになりますよ、お姉様」
「ふふ、そうだったわね?」

 そんな日々が、いつまでも続くものだと私は思っていた。
 この時の私は、まだ知らなかったのだ。私という存在の影響力が、どれだけ大きなものであるのかということを。