「お姉様、今日はですね。数学の勉強をしたんです」
「あら、そうなの? それは偉いわね」
「褒めていただけますか?」
「ええ、もちろん、よく頑張ったわね」

 私がゆっくりと頭を撫でると、エルメラは目を細めて喜んでいた。
 今となっては、それはなんとも不思議な光景であると思える。
 ただエルメラは、ある一定の時期から私にとても懐くようになっていた。二人でのお茶会が始まったのも、丁度そのくらいの時期だっただろう。

「お姉様に褒められると、なんだか元気が湧いてきます」
「私もエルメラからは、元気をもらっているわ」
「本当ですか? それは嬉しいです」

 当時のエルメラは、明るい性格だった。
 幼少期の頃や今と比べると、信じられないくらいの天真爛漫さだった。
 子供らしくなったといえばそうなのだが、どうしてそうなったのか、私は未だによくわかっていない。

「そんなエルメラにご褒美とかお礼って訳でもないのだけれど、実はケーキを作ってみたの」
「ケーキ、ですか? わあ、すごく上手に作れていますね?」
「そうかしらね? 確かに、見た目は上手くできたような気はするかも。でも、問題は味だものね」
「大丈夫です、きっとおいしいですよ」

 昔の私は、お菓子作りなんてものに精を出していた。
 別に今でも嫌いという訳ではないのだが、いつからか私はそういったことをしなくなった。
 そういえば、始めた動機は妹が喜ぶ顔が見たかったから、だっただろうか。妹の心が私から離れたことによって、私はモチベーションを失ったのかもしれない。

「……やっぱり、おいしいです」
「そう? それなら良かったわ」
「こんなご褒美があるなら、いくらでも勉強を頑張れちゃいそうです」
「それは少し大袈裟なような気もするわね……でも、ありがとう」

 私達は、仲が良い姉妹であった。お茶会に限らず、二人で時間を過ごすことが多かったような気がする。
 ただ、その関係性はそれ程長く続かなかった。ある時から、エルメラは私のことを避け始めたのである。

 それから、エルメラの態度も大きく変化していった。
 いつも不機嫌というか、少なくとも明るくはなく、あまり笑顔を見なくなったのである。
 そこにどのような心境の変化があったのかは、私にはわからない。何かあったのだろうか。それは改めて振り返ってみると、気になることである。

 とはいえ、単に思春期とかなのかもしれないし、本人に聞けることではないだろうか。
 いや、せっかくエルメラと話すつもりなのだから、この際気になることは全部ぶつけてみるべきかもしれない。
 そうすることによって、何かが見えてくる可能性もある。ここは勇気を持って、ことに当たるべきだろう。