幼少期のエルメラは、今程に感情を表に出してはいなかった。
 私の記憶の中にある最古の彼女は、いつも本ばかり読んでおり、物静かな子だったような気がする。

 今思えば、その時から彼女は既にその類稀なる才能の片鱗を、見せていたのかもしれない。
 彼女が読んでいたのは、難しい本だった。当時の私は、本のタイトルを見て首を傾げていたものである。

「こんな所にいたのね、エルメラ」
「……お姉様?」

 そんなエルメアも、時々は外に出ることがあった。
 屋敷の庭で、彼女は魔法を行使していたのである。
 それはもしかしたら、本で読んだことを実践していたのかもしれない。魔法の技術を磨くには、それが最も重要なことだというし。

「何をしている……の?」
「……どうかしましたか?」
「エルメラ、これは……あなたがやったの?」

 ただ、当時の幼い彼女は、まだ命というものに関する認識が浅かった。
 彼女の魔法によって、撃ち落されたであろう鳥達の亡骸の数々は、今でも私の脳裏に焼き付いている。

「はい、そうですが。何か問題でも?」
「……こんなこと、可哀想だわ」
「自然界とは、弱肉強食でしょう? この鳥達は、弱かったから撃ち落された。それだけのことではありませんか」
「この子達があなたに何かした? たた大空を気ままに飛び回っていた鳥達を、あなたは遊び半分で撃ち落としたのではないの?」
「だからなんだというのです?」

 あの時のエルメラは、本当に訳がわからないというような顔をしていた。
 彼女は賢かったが、命というものについては何も考えていなかったのだろう。
 そういった面に関して、エルメラは子供だった。彼女も完全無欠という訳ではなかったということが、今なら理解できる。

「鳥だってなんだって、一生懸命生きているのよ。そんな命を弄ぶなんて、私は許さない」
「……別にお姉様の許可がいるなんて、思ってはいません」
「エルメラ、待ちなさい」
「……私には力があります。それをどう使おうとも、私の自由ではありませんか」

 私の言葉を聞いたエルメラは、少し不機嫌そうな顔をしていた。
 そして彼女は、近くにあった大木に何かを飛ばした。それは恐らく、威嚇射撃のようなものだったのだろう。私に対して、これ以上余計なことを言うなと、彼女は暗に告げていたのだ。

 あの時の私の言葉は、果たしてエルメラに届いていたのだろうか。それはよくわからない。
 ただそれからしばらくして、私達は仲の良い姉妹として、過ごしていたような気がする。エルメラが私のことを慕ってくれるようになったのだ。
 ということは、あの言葉がエルメラに何かしらの影響を与えたと考えていいのだろうか。