「……イルティナ嬢、僕はあなたがエルメラ嬢に対する態度を改めるとするなら、もっと姉として自信を持って接するべきだと思います」

 ドルギア殿下の言葉に、私は固まっていた。
 そのようなことを言われるなんて、思ってもいなかったからだ。

「ドルギア殿下……それは一体、どういうことですか?」
「いえ……これは、僕の推測でしかありませんが、エルメラ嬢はきっとイルティナ嬢のことを疎ましく思っていたりは、していないと思います」

 ドルギア殿下は、真剣な顔をしていた。
 彼がどうしてそこまで力説できるのか、私にはわからない。ドルギア殿下に、エルメラとの繋がりなどはなかったと思うのだが。

「イルティナ嬢とのお茶会をエルメラ嬢は嫌がっていなかったのでしょう?」
「ええ、それはそうですが……でも、その中でもなんだか不機嫌そうだったというか、エルメラは無駄が嫌いな性格でしたし」
「無駄が嫌な性格をしているエルメラ嬢が、お茶会を長年続けるでしょうか? エルメラ嬢程に賢い人であるならば、その辺りの判断を誤ったりはしないはずです」
「それは……」

 ドルギア殿下の言葉に、私はエルメラの性質を改めて思い出していた。
 彼女は、幼い頃からの習慣だからといって、流される性格ではない。嫌なら嫌とはっきりと言う。遠慮なんてしない。
 そんな彼女が、私とのお茶会をずっと続けていた。それは考えてみれば、おかしな話である。

「まさか……エルメラは、あの時間が必要だと思っている?」
「……まあ、僕には断言することはできません。エルメラ嬢のことは、イルティナ嬢の方がよくわかっているのでしょうし。ただ、僕は末の弟ですからね。下の子の気持ちは、わかるつもりです」
「下の子の気持ち、ですか……」
「色々な思いはありますが、真っ当な兄や姉のことはなんだかんだ好きなものですよ。面と向かってそういうのは、恥ずかしいですが」

 ドルギア殿下は、少し照れながら言葉を発していた。
 もしかしたら、エルメラもそんな感じなのだろうか。少し想像することができないのだが。

「そもそも、昔のエルメラ嬢はどんな感じだったんですか?」
「昔?」
「ええ、昔から今のような感じだったんですか? それとも、今とはまったく違ったりしたのですか? その辺りが、少し気になります」
「そうですね。昔のエルメラは……」

 ドルギア殿下に促されて、私はゆっくりと昔のエルメラのことを話し始めた。
 なんというか、アーガント伯爵家に帰ったら、改めて妹と話してみたくなってきた。今なら彼女と、今までとは違う気持ちで話せるような気がする。