「ど、どうして……?」

 毒を仕込んだジュースを飲んだ私が、いつまで経っても倒れないことに、パルキスト伯爵夫人はひどく動揺しているようだった。
 その間の抜けた顔は、額縁にでも飾っておきたい程に滑稽だ。いや、この馬鹿の顔を毎日見ると不快さの方が勝つような気がする。額縁に飾るなら、やはりお姉様だろうか。

「残念でしたね。偉大なる私には、毒なんて効かないんです」
「そ、そんな馬鹿なことが……」
「解毒の魔法なんて、基本中の基本ですよ? 私の体には、常にそれがかかっているんです。毒が体に回る前に、一瞬で浄化される……私を毒殺することはできません」

 歴史上最も偉大な魔法使いである私のことを、疎ましく思っている者も多くいる。
 私という存在そのものが、利権であるのだ。故にこの命を狙われることも少なくない。
 故に私は、常に自己の防衛ができるように普段から心がけている。毒殺なんて、暗殺の定番への対策はばっちりだ。

「それにしても、まさか毒殺なんて……パルキスト伯爵夫人、これは大問題ですよ?」
「なっ! そ、それは……」

 息子の婚約者を毒殺しようとした。パルキスト伯爵夫人がやろうとしていたことは、どう考えても重罪だ。
 というか、仮に私が本当に死んでいたとしても、これは大問題だったと思うのだが、彼女にそれを何とかする程の策が用意できていたのだろうか。

「わ、私が毒を仕込んだなんて、証拠なんてないわ」
「そんなものは、調べればすぐにわかることです。それに、私は目に映っていたこと、耳で聞いたことを記録する魔法を常に行使しているのですよ。あなたが、先程口にした言葉も証拠として提出することができます」

 色々な敵意に晒されることも多いため、私は自衛のために様々な魔法を常に使っている。その魔法が、今回は有意義に働いてくれそうだ。
 パルキスト伯爵夫人が、私を煽るために全てを口にしてくれて本当に良かった。こんなにも単純なんて、思わず笑ってしまいそうになる。

「そ、そんなことをして許されると思っているの? 私は、このパルキスト伯爵家の――」
「残念ですが、あなたの価値なんて私の足元にも及びませんよ。私という存在の価値が、どれ程のものなのか、あなたはこれからしっかりと味わうことになりますよ」
「なっ……!」

 私は敵も多いが、それ以上に味方も多い。
 例えば、国王様は私の味方をしてくれる。私が王国にもたらす利益は、多大だからだ。
 もしもパルキスト伯爵家が足掻いても無駄である。この件においては、必ず真っ当な判決が下されるだろう。