「……まさか、あなたが私を訪ねて来るなんてね」

 部屋を訪ねた私に対して、パルキスト伯爵夫人は露骨に嫌そうな顔をしていた。
 そういった態度を隠そうともしないことが、美徳だとでも思っているのだろうか。この夫人の子供染みた態度に、私は少し呆れてしまう。
 とはいえ、彼女がそうやって扱いやすい人であるということは、本当に好都合だ。思わず笑ってしまいそうになる。

「お義母様とお近づきになりたいと思いまして……これからは、家族になる訳ですから」
「……あなたと家族ですって? 笑わせないでもらいたいわね。そんなつもり、私にはないわ」
「付き添いの使用人に頼んで、葡萄酒を買ってきてもらったんです。ブラッガ様から、お義母様が好んでいると聞いて……ああ、もちろん私は未成年ですから、こちらはいただけませんが」

 私は、パルキスト伯爵夫人の前にグラスを置き、葡萄酒を注いだ。
 それから自分の側にもグラスを置いて、葡萄のジュースを注ぐ。
 すると夫人は、自分のグラスを持ち上げた。どうやら、乾杯に応じてくれるようだ。

「ありがとうございます、お義母様」
「ふん……」

 乾杯をした後、私は葡萄ジュースを口の中に入れる。
 すると、奇妙な味が広がった。葡萄の味と甘みの他に、奇妙な苦みというか、痛みを覚えたのである。

「これは……」
「ふふっ……あははっ」

 次の瞬間、パルキスト伯爵夫人はその顔を醜悪に歪めた。
 人のことを心底馬鹿にしたような笑みで、彼女は笑う。

「天才だとか、秀才だとか言われていたけれど、所詮は小娘だったようね?」
「な、何をっ……」
「あなたの飲んだ葡萄ジュースの中に、毒を入れておいたのよ。あなたが食事の時に、懇切丁寧に説明してくれたじゃない」
「まさか、ショウエングサの根を……」

 私は、食事の席でとある植物のことを解説した。
 ある料理に使われていたその植物は、葉自体は問題ないのだが、根に人体に有害な毒を持っている。
 それは屋敷で栽培されているらしいので、夫人が持ち出すのもそう難しいことではなかっただろう。彼女は事前に、私のジュースにそれを仕込んでいたのだ。

「あなたがいけないのよ。この私のことを侮辱したのだから」
「……」
「天才だと持てはやされていい気になっていたのかもしれないけれど、これが現実よ。まあ、もう改める機会もないのだけれど……」
「ふふっ……」
「……え?」

 流石の私も、ここまで上手くいくなんて思っていなかった。
 現実というものは、結構簡単なのかもしれない。まあ私は天才なのだから、それは当然か。