「偉大なる才能を持つ妹、ですか……」
エルメラの話を聞き終えたドルギア殿下は、ゆっくりとため息をついた。
その表情は、それ程明るいものではない。なんというか、思い悩んでいるといった感じだ。
「力になると言っておいて情けない限りではありますが、僕にはイルティナ嬢の気持ちがわからないかもしれません。何せ僕は、末っ子ですからね」
「……しかし失礼ながら、兄弟姉妹に劣等感を覚えているという点では、ドルギア殿下は私と同じなのではないでしょうか?」
「まあ、それはそうですね。そういった共感があったからこそ、僕はイルティナ嬢と仲良くなれたのかもしれません」
ドルギア殿下は、私の言葉にゆっくりと頷いてくれた。
私と彼は、不思議と馬が合う。それは前々から、わかっていたことである。
それはきっと、私達に似通った部分があるからだ。私は妹に、彼は上の兄や姉に、それぞれ劣等感のようなものを抱えている。
「ですが、スケールが違うようにも思います。僕の場合は、偉大なる兄や姉を見本として、目標としてそうなりたいと思えますから」
「それは……そうですね。私とは違います」
「そもそもの話、エルメラ嬢は外れ値です。普通の尺度では測れないのかもしれません」
エルメラという偉大なる才能は、他に類を見ない。そんな彼女の姉という立場は、もしかしたらかなり特殊なのかもしれない。
ドルギア殿下の言葉を聞いて、私はそんなことを思った。それは至極簡単なことではあるのに、今までずっと見落としていたことでもある。
「そういうことなら、私は最初から間違っていたのかもしれませんね」
「間違っていた?」
「……姉になりたいと、思っていたんです。妹から尊敬されるような立派な姉に。でもそうなることなんて、きっと無理だったんです。相手はあの、エルメラですから」
今は見る影もない訳だが、これでも昔は良き姉として振る舞っていたつもりだ。
先に生まれた者として、妹を導く。そういった役目が自分にはあるのだと、思っていた。
だけど、いつしか私は自信をなくしていた、私なんかが、エルメラを導くことができないと、心のどこかで思うようになっていたのだ。
そのことについて、私はもっと早く認識しておかなければならなかったのだろう。
一般的な姉なんか、エルメラには当てはまらない。彼女の姉になるなんて、私にはきっと荷が重過ぎたのだ。
「もう少し弁えるべきなのかもしれませんね、私は……エルメラの上に立とうとするのではなく、彼女に従う。それがエルメラの姉に求められることなのかもしれません」
なんというか、私の今後の身の振り方がわかったような気がする。
彼女の姉であるなどというちっぽけなプライドは、捨てた方がいい。あくまでも彼女の才能に従う者としての振る舞いを、心掛けた方がいいのだろう。
そう思って、私はドルギア殿下の方を見た。すると彼は、私を真っ直ぐに見つめていた。
彼の瞳には、曇りがない。優しい顔達の彼にしては威厳に溢れたその表情に、私は少しだけ気圧された。
そして彼は、ゆっくりと口を開いた。その言葉に、私は目を丸めることになった。
「そうでしょうかね? 僕はそんなことは、ないと思いますけど」
「……え?」
エルメラの話を聞き終えたドルギア殿下は、ゆっくりとため息をついた。
その表情は、それ程明るいものではない。なんというか、思い悩んでいるといった感じだ。
「力になると言っておいて情けない限りではありますが、僕にはイルティナ嬢の気持ちがわからないかもしれません。何せ僕は、末っ子ですからね」
「……しかし失礼ながら、兄弟姉妹に劣等感を覚えているという点では、ドルギア殿下は私と同じなのではないでしょうか?」
「まあ、それはそうですね。そういった共感があったからこそ、僕はイルティナ嬢と仲良くなれたのかもしれません」
ドルギア殿下は、私の言葉にゆっくりと頷いてくれた。
私と彼は、不思議と馬が合う。それは前々から、わかっていたことである。
それはきっと、私達に似通った部分があるからだ。私は妹に、彼は上の兄や姉に、それぞれ劣等感のようなものを抱えている。
「ですが、スケールが違うようにも思います。僕の場合は、偉大なる兄や姉を見本として、目標としてそうなりたいと思えますから」
「それは……そうですね。私とは違います」
「そもそもの話、エルメラ嬢は外れ値です。普通の尺度では測れないのかもしれません」
エルメラという偉大なる才能は、他に類を見ない。そんな彼女の姉という立場は、もしかしたらかなり特殊なのかもしれない。
ドルギア殿下の言葉を聞いて、私はそんなことを思った。それは至極簡単なことではあるのに、今までずっと見落としていたことでもある。
「そういうことなら、私は最初から間違っていたのかもしれませんね」
「間違っていた?」
「……姉になりたいと、思っていたんです。妹から尊敬されるような立派な姉に。でもそうなることなんて、きっと無理だったんです。相手はあの、エルメラですから」
今は見る影もない訳だが、これでも昔は良き姉として振る舞っていたつもりだ。
先に生まれた者として、妹を導く。そういった役目が自分にはあるのだと、思っていた。
だけど、いつしか私は自信をなくしていた、私なんかが、エルメラを導くことができないと、心のどこかで思うようになっていたのだ。
そのことについて、私はもっと早く認識しておかなければならなかったのだろう。
一般的な姉なんか、エルメラには当てはまらない。彼女の姉になるなんて、私にはきっと荷が重過ぎたのだ。
「もう少し弁えるべきなのかもしれませんね、私は……エルメラの上に立とうとするのではなく、彼女に従う。それがエルメラの姉に求められることなのかもしれません」
なんというか、私の今後の身の振り方がわかったような気がする。
彼女の姉であるなどというちっぽけなプライドは、捨てた方がいい。あくまでも彼女の才能に従う者としての振る舞いを、心掛けた方がいいのだろう。
そう思って、私はドルギア殿下の方を見た。すると彼は、私を真っ直ぐに見つめていた。
彼の瞳には、曇りがない。優しい顔達の彼にしては威厳に溢れたその表情に、私は少しだけ気圧された。
そして彼は、ゆっくりと口を開いた。その言葉に、私は目を丸めることになった。
「そうでしょうかね? 僕はそんなことは、ないと思いますけど」
「……え?」