パルキスト伯爵家の領地の周辺で、魔物が大量発生しているらしい。
 それによって、私は帰るに帰れない状況になっていた。
 パルキスト伯爵の厚意で泊まらせてもらえることになった訳だが、この状況は私にとって良いものである。この家の内部に、深く入り込むことができそうだ。

「ブラッガ様、お隣によろしいですか?」
「え? ああ、もちろんだとも」

 夕食の場において、私はブラッガ様の隣に腰掛けた。
 婚約者であるのだから、その位置取りは当たり前だ。多分パルキスト伯爵家側も、想定していたことだろう。

 ただ、私がブラッガ様の隣に腰掛けた瞬間、夫人の鋭い視線がこちらに向いた。
 事前に散々煽ったお陰か、彼女の敵意はかなり大きくなっているようだ。

「いやはや、才女と名高いエルメラ嬢と食事をともにできるとは、光栄な限りだ」
「バルクス様、こちらこそ光栄です」
「兄上、僕の婚約者ですよ? 口説いたりしないでくださいね」
「信用がないな。流石の俺でも、そんな真似はしないさ」

 ブラッガ様の兄であるバルクス様は、母親の様子にまったく気付いていなかった。とても気楽な様子で私に話しかけている。
 それがまた気に食わなかったのか、パルキスト伯爵夫人は私を睨みつけてきた。どうやら彼女の執着は、長男の方にも向いているようだ。

 しかし、パルキスト伯爵夫人の息子に対する思いは、決して健全なものとは言い難い。
 いくら息子だからといって、こんなにも愛を向けるものなのだろうか。なんというか、少し引いてしまう。

 別に家族を愛するということ自体は、悪いことではないと私も思っている。
 ただ、そういったことは節度を守って行うべきことだ。夫人のように歪んだ愛情を向けるなんて、持っての他である。

 例えば、私のお姉様に対する思いは、とても清らかだ。家族愛というなら、私を是非とも見習って欲しいものである。
 もっとも、夫人がそのことに気付いた時には、既にことが終わっているだろう。せっかく私という偉大な見本があるというのに改める機会がないなんて、哀れなものである。
 いや、哀れなんて思う必要はないか。お姉様を侮辱した大罪人に同情なんて不要だ。

「まあ積もる話もあるかもしれないが、食事を始めようじゃないか。冷めてしまっては、もったいないからな」
「ああ、そうですね、兄上。エルメラ嬢、遠慮せずに食べてくれ」
「ありがとうございます」

 バルクス様の鶴の一声によって、食事が始まった。
 料理を口に運びながら、私はこれからのことを考える。さて、この一家をどうやって叩き落すとしようか。