「はい、チョコバナナ」



 二人分のクレープを買って、先輩は私の隣に腰かけた。



「……ん、うまっ!この味だ、この味……!」



 先輩は、ツナサラダ味。
 部活帰りでお腹空いてるからって、いつもおかずクレープばかり頼んでたっけ。

 それで、途中で甘いやつも食べたいって言いだして……。



「花、一口交換しよ」



 一口交換しよ、って言ってくるんだ。



「いいですけど、先輩一口大きいから小さく食べてください」

「んー……善処する」



 そう言いながら、わざとらしく普段よりさらに大きい口で私のクレープにかぶりつく。

 負けじと私も大きめにかぶりつく。


 これも、このクレープ屋さんに来たときの恒例だった。



「先輩、今日これから何するんですか?」

「友達……っていうかまあ、颯太と竜、あいつらも帰省してるらしいから、今日遊ぶ約束してる」



 颯太と竜っていうのは、先輩と同じ代の、野球部の先輩。



「長浜先輩と八木先輩も、帰ってきてたんですね」

「らしい。もしかしたら三人で一回くらいは部活に顔出すかも」

「そうしてくれたら、二、三年生が大喜びしますよ」



 長浜先輩と八木先輩も確か県外に進学したから、三人が会うのは卒業以来なはず。



「他の先輩とは会う約束してるんですか?」

「野球部はあいつらだけ。野球部じゃないけど、他にも何人か中高のときの友達と会う予定入れてる」

「そっか……数か月ぶりの帰省ですもんね……」



 私だけに時間を割けるわけじゃないって、わかってる。

 先輩はこの地元に、友達も、家族も、親せきもいて。
 いつでも友達と会える私と違って、先輩が地元の友達と遊べるのは、帰省した時だけなんだから……それを邪魔しちゃだめだよね……。

 余計なことを口走らないよう、私はクレープを口いっぱいに詰め込んだ。



「……でも、あの……20日、空けてるんだけど……」



 8月20日。

 空いてる、じゃなくて……空けてる。


 私は先輩の言わんとすることが分かって、涙がこぼれるかと思った。

 さっき、言おうと思って、だけどクレープと一緒に飲み込んだ言葉を、私は改めて口にする。



「……20日の花火大会、今年もいっしょに行きませんか?」



 近所の花火大会。


 小学校の間はずっと家族で行って。

 中学校の間はずっと友達と行って。

 高校の三年間はずっと……先輩と行った。


 ちょうど二年前の花火大会、そこで私たちは付き合ったから。



「行くに決まってる。ていうか、花の浴衣見るために帰省した」



 先輩がまっすぐな瞳で、そう言った。