しばらく先輩は、私を抱きしめたまま動かなかった。

 けれどどのくらい経ったのだろうか、先輩は名残惜しそうに私を捕えていた腕を緩めた。


 至近距離に立つ先輩が、どことなく悲しそうに笑う。



「……ごめん、久しぶりだし、急に抱きしめられても困るよな」

「……困る、とかそんなの……」



 ないです、と言おうと思ったけど……でもたぶん、私が抱きしめ返そうとしてやめたことを、先輩は気づいてたはずだ。

 言葉につまった私に変わって、先輩は口を開く。



「………花、これからまだ時間ある?俺昼過ぎまで時間あって……俺は花といっしょに過ごしたいんだけど……」



 少しためらいがちに、先輩が私の目を覗き込む。



「いい?だめ?」

「……ダメじゃないです……」



 私の返事を聞いて、先輩がそっと頭をなでてくれる。



「ごめん、俺のわがままばっか」

「……わがままじゃないです……、私もいっしょにいたいから……」

「うん、ありがとう」



 久々に再会したばかりなのに、先輩は謝ってばかり。
 そして先輩を謝らせているのは、私の戸惑いがちな態度のせい。


 わかってる、わかってるけど……。


 先輩の変わってしまったところにばかり目がいって、その度に私の心が締めつけられるくらいくらい苦しくなるのは、なんでなの?