私はじっと、その人を見つめた。

 その人は静かに、倉庫の隅々まで見返す。



「……数ヶ月なのに……なんかすごい、懐かしいな」



 その人は数ヶ月前を懐かしむように、目を細めた。



「……ひ、づき……せんぱい?」



 その人は倉庫を見渡していた視線を止めると私を見つめ、小さく笑った。



「そうだよ。久しぶり、(はな)



 その低くて静かな声は、確かに火月先輩の声だった。

 私を見つめて笑った顔も、確かに火月先輩のものだった。


 でも……火月先輩は、私の記憶の中の姿とはずいぶん変わっていて。



「……火月先輩……、髪……伸びましたね……」

「ん?あー、そっか、前あったときはまだほぼ坊主に毛が生えたくらいだったか」

「それに……髪色も」

「うん、染めるのずっと憧れてたから……大学入ってすぐ染めた」



 明るめな茶髪と、緩めにセットされたセンターパート。
 襟足は刈り上げてあって、耳元のフープピアスがよく映えた。


 久しぶりに会った火月先輩は、私の記憶の中の火月先輩とはずいぶん違って……なんだか別人のようだった。


 黙り込む私を見て、先輩が口を開く。



「ごめん、急に会いに来たら戸惑う、よな」

「そ、そういうんじゃ……」

「こっち戻ってきたらなんか……無性に花に会いたくなった」



 先輩はそう言って、少し切なそうな表情で私をじっと見つめた。



「今、俺……めっちゃ、花のことぎゅってしたいんだけど……だめ?」

「だ、だめじゃ……」



 ない、と言いかけたところで、もう先輩は私を抱きしめていた。



「せ、せんぱ……」

「花」


 先輩は苦しいくらい強く、私を抱きしめた。
 そして何度も、私の名前を呼んだ。

 先輩の腕の中は相変わらずあったかくて、抱きしめながら私の頭をなでる癖も、変わっていなかった。


 だけど……私が大好きだった先輩のお日様みたいな匂いはしなくて、初めて嗅ぐ爽やかな香りが私を包んでいた。



(先輩……いつの間に香水なんて使うようになってたんですか……)



 かぎなれない匂いも、ハグしたとき肩に触れる髪も、どこか私の思い出の中の火月先輩と違っていて。


 抱きしめ返そうとして手を広げたまま……私は最後まで、火月先輩を抱きしめ返すことができなかった。