ピーーーーーーッ!!


 じりじりと夏日が照り付けるグラウンドに、涼やかなホイッスルの音が鳴り響く。



「じゃあ15分経過したので一旦休憩はさみまーす!水分補給しっかりねー!!」



 私はグラウンドでへばる野球部員たちにそう叫ぶ。



「じゃあ飲み物とタオル渡してあげてね、さっきの練習の記録はファイルの中に入れておけばいいから」

「はいっ」



 今年から新しく入ってきた一年生のマネージャーたちに指示を飛ばしつつ、私も部員たちに飲み物を配って回る。



「遠藤くん、飲み物もらった?」

「あ、まだっす!」

「はいこれ。ちゃんと飲むんだよ?遠藤くん水分補給怠りがちなんだから」

「うっす……」



 しおらしく返事を返してきた後輩につい笑みがこぼれる。



「はい豊橋のぶん!今日どうした?記録伸びなくない?」

「だってこんな暑いとさー……動きたくねぇ……」

「しっかりしな!うちらは今年で最後なんだから!」



 チームメイトでもありクラスメイトでもある豊橋の背中をバシンと大きくたたくと、豊橋が痛そうに顔をしかめる。



「いった!お前それでも女か!?」

「気合い入れてあげたんじゃん、ありがたく思え!今年こそは勝つ、でしょ?」



 私の言葉を聞いて、豊橋も今度は真剣な表情でうなずいて、口を開く。



「わかってるよ。去年の夏のリベンジ、だろ」



 別段私達の学校は強豪校ではないけど、一つ上の学年は優秀な選手が多くて、初めて甲子園に出場した。

 でも結果は一回戦敗退。

 全国の壁は厚いって、苦しいほど痛感した。


 そして……その壁を破るのが、今年の目標。



「先輩方と、約束したからな」



 先輩……。
 豊橋の言葉で、私の脳裏に……あの優しい眼差しがよみがえる。



(……火月(ひづき)先輩……)



 物思いにふけるような私の表情を見て、さっきの真剣さはどこへやら、豊橋がにやっと笑った。



「なー?約束したもんなー?夏原(はつはら)先輩と」

「!!ちょ、なんで火月先輩の名前が今でてくるわけっ……!」

「え?絶対今夏原先輩のこと考えてたろ?」



 にやにやしながらからかってくる豊橋を無視しようとしたけど、一年生のマネージャーの一人、彩ちゃんが私たちの会話に混ざってくる。



「なんの話ですか?もしかしてコイバナですっ?」



 わくわくした感じで聞いてくる彩ちゃん。
 どうにか誤魔化そうと考える私を置いて、豊橋が話し始める。



「そうそう!こいつの彼氏の話!!」

「えぇっ!?先輩彼氏いたんですか!?誰なんですかっ!?」

「夏原先輩っていう俺らの一個上のキャプテン!」

「うわ!青春っ!!」



 私を置いて盛り上がる二人に、そっとため息をつく。



(彼氏って言ったってさ……)



 もう四か月も会ってないんだけど、なんて心の中で愚痴りながら。