彼女の家を出た彼は別の人間に拾われた。

 彼を拾った人間からの命令は、人を傷つける命令や自分勝手なものばかり。
 そして気が済めば彼を捨て、次に彼を拾った者は彼に辛く当たり乱暴を繰り返す。

 こうして彼は身勝手な何人もの人間たちに次々と拾われ、彼の胸はそんな人間たちに拾われ捨てられるたびにズキズキと音を立てた。


 あるとき、一人の若い娘が街の隅に座り込む彼を見つけた。

『ご命令をなんなりと、ご主人様』

 近付いてきた彼女に、無表情の抑揚の無い声でそう告げる彼。
 しかしそんな彼の姿は無惨なものだった。

 服はボロ切れを纏っているかのようにボロボロで、手足は傷付き血液も出ないままあちこちが抉れ、元の整った顔もわからないほど傷付いている。

 驚き何があったのか問う彼女に彼は、また抑揚の無い声で尋ねる。

『それがあなたのご命令ですか?』

「あなたに命令するつもりはないわ。私はあなたの“ご主人”じゃないから」

 娘は彼を連れて家に帰った。