「顔が整ってるのは分かるけど、それがだからといってこんな熱狂的なファンを付けるほどのことだとは思えないのよね、私」

 みんな趣味悪いわよね、と肩を竦めて呆れて見せた咲月の様子を楽しげに笑って受け入れる祥希の姿を見て、懐が深いというかなんというか。笑って楽しんでいい言葉なのか、と微妙な表情になる。
 きっと、この場所に立ち入ることを禁止された人が聞いたら流血沙汰になるのでは無いだろうか、話を聞く限り。

「お前は別に、来たければ何時でも来ればいい」

 話を聞いていただけの葵がふと口を開いた。

「王様の気まぐれだ」

 祥希が眉を困ったように下げつつそんなことを言う。

「王様?」
「そう、王様。一応俺らのトップは葵だからね、誰よりも偉いこいつが言うなら文句はないよ全然」

 海からすれば、出入りが許されたという事実が知られるだけでかなり大きな面倒事に発展しそうな気配があるので遠慮したいのだが。
 思いのほか落ち着けるこの場所を手放すのも惜しい。

「……まぁ、来たい時があれば、来るかもしれません」

 とりあえず、この先本当に来るかどうかは少し分からないものの、いいですと言うには過ごしやすいこの場所への未練から、そんな言葉を素っ気なく返した。