転校初日ということで、高嶺海の向かう先は職員室だった。
 広い敷地の中は、見かける生徒の派手さに反し落ち着いた白さを湛えている。すれ違う派手な髪色の人たちも相まって真っ白なキャンバスをさまざまな絵の具で自由に彩っているかのような、そんな光景がそこにはあった。

 見慣れぬ派手さに瞬きをしつつ、地図と睨めっこしながらもたどり着いた職員室で、担任であろう教師と顔を合わせ無事教室へと移動するさ中、開いた窓から吹き抜ける風が、濡れ羽色の髪を揺らす。歩を進めながらチラリと窓の外に目を向けて、視界に広がる景色を目に焼きつける。

「……久々の学校にしては、随分と浮世離れした」

 小さく零れ落ちた言葉諸共、新しい環境に身を置くなんとも言えない感情までも、風がさらって行く。

 職員室から、渡り廊下を進んだ先。
 声をかけるまで待つように言われた扉の前で教師が中へと先に向かうのを見届ける。

 これから始まる学校生活に、期待があるかと言われると、そうでも無い。
 ただ、少し。やっぱり楽しければいいなと思う程度には、ちゃんとこの新しい環境で過ごしたいという気持ちが存在した。

 制服を着て、友達と交流する機会は人生のうちほんの少しなのだから。

 教室から「では高嶺さん」と言う声が聞こえてくる。
 小さく息を吸って、ゆっくりと吐き出したあと、新たなる日常への一歩を踏み出した。