帝国の隣にある風が吹いたら吹き飛ばされるくらいの小国の末っ子王女としてアリアは育った。

しかし、お姫様のような生活は一度もしたことがなかった。

 むしろ


 「アリア、紅茶が不味い。もう一度入れ直してきなさい」

 「相変わらず、腕がお下手なことで。王族のこと馬鹿にしているの⁈」

 「申し訳ございません。直ぐに入れ直しします」


 使用人であるメイドをしていた。

 皇后である母や同母姉は家族ではなく、主人。

 『お母さま』、『お姉さま』と呼ぶことが許されていない。


 「こちらをどうぞ」


 目の前で楽しむのは美しいドレスや宝石で着飾った主人。

 一方、アリアの服は下級メイドの服。

 宮殿(自分の家)で自分が働く。

 そのため、他のメイドは少ないながらも給金は出るが、アリアにはなかった。

 メイド服は解れているところや切れているところがあるが、直すための糸や針を買うお金がないので周りよりもより一層貧相に見えてしまう。


 「ふーん、ほら、さっさとここから出なさい」

 「わ、分かりました」


 皇后の許可でお茶会の空間から出て、自分の部屋に逃げ込むように入る。

 自分の部屋といってもアリアが横になるのが精一杯くらいの小さな部屋(物置)


 「いつになったら、わたくしは楽になれるのかしら?」


 楽になりたい。

 アリアのたった一つの願い。

 今日はお茶直しだけで済んだが、きっと明日は殴られるかもしれない。

 長い袖とスカートで隠れてはいるが、アリアの肌には最近出来た赤いものからいつできたのかも分からない青黒いものが体中にあった。

 使用人をしているとはいえ、アリアは王女の肩書を持つので、目立つところにはまだ怪我がない。......今のところは。


「皇后様やお嬢様はわたくしのことを嫌っていらっしゃる......。きっとこの見た目がお気に召さないのでしょうね」


父である国王や皇后、アリアの兄や姉は濃さがあるものの王族の印である光輝くような金色に深い青色の目をしている。

でもアリアは違う。

お隣の皇女殿下のような銀の髪に緑の目。


「お気に召さないのなら、早くわたくしをここから出して欲しい......。たとえ、生きてはいなくても」


まだ若い15のアリアには生きるという選択肢は消えてしまっている。

そして、アリアの願いが現実になるのはすぐ側まで来ていた。