異常に雨が多い年だった。

おかげで父親譲りの癖毛はここぞとばかりに威力を増し、各々が好きな形を自由に作っていた。
数週間前に髪を切ったことも起因しているだろう。過去の自分を恨んでいた。

今日みたいに雨の降らない日でも太陽は私たちと顔を合わせる気はないようで、いつになったら機嫌が直るのだろうと考えたり、
冷房で丁寧に冷やされた肌が、生ぬるい微かにアスファルトと雨の匂いが混じった梅雨の風に掻っ攫われることに不快感を感じたり。
兎に角暇の弄び方が分からなくて、貴重な時間を贅沢に溶かしていた。

彼と出逢ったのはその頃だった。

鮮烈な何かが体を走ったわけでも、運命的な再会をしたわけでもなかった。

ただ、腑に落ちたような、そんな感覚だった。
それなりの大きさをした心の穴を埋めてくれる様な、無機質に鳴る規則的な時計の音を忘れさせてくれる様な、
そんな出逢い。

言葉では表しきれないけれど、完璧に表せてしまうのは少し残念に感じてしまうほど

私は彼に恋をしていた。

甘く苦い、愛おしい思い出の始まり。