私はみやびちゃんと最後に(・・・)会ったときのことを思い出していた。
 イカ五のお土産を渡そうと思って連絡したら、「うち今ちょっとバタバタしてるから、コンビニで待ち合わせしよう」と言われたっけ。

 そのときはごく普通に笑顔でお土産を受け取り、「少しおしゃべりしよう」と言われたけれど、あまり長居するとお店のスタッフに注意されるので、飲み物やアイスを買って、近くの公園に移動して、児童公園の大きな木の下でしばらくしゃべっていた。

 みやびゃんは、この間のふわふわワンピースよりはラフな格好だったけど、私が着ていたTシャツやハーフパンツよりははるかにおしゃれな服で、それでも気にせず草の上に座っていたっけ。

◇◇◇

 その後は特に意味もなく連絡を取っていなかったけれど、とりあえず様子うかがいのつもりで「元気?」ってチャットメッセージを送ったら、「通話できる?」と言われたので、通話に切り替えた。

 みやびちゃんは今、隣町にあるお母さんの実家に住んでいて、そこから蒼月(がっこう)に通っているという。
 ご両親は離婚して、あの受付の感じの悪い美人は、久賀先生の「新しいカノジョ」だそうだ。
 もともといたスタッフさんは、みんなみやびちゃんのお母さんを慕っていたので、あの人が受付に入るようになってから、反発して退職したらしい。

『うちのおっかあが無駄に顔広いから、皆さんの再就職は何とかなってよかったよ』

 お母さんのことを「おっかあ」っていうのか、みやびちゃん。意外。

あの人(・・・)って人あたりはいいんだけど、女癖悪くてねえ。遊びのつもりが、遊びじゃすまないタイプに手出しちゃったみたいで、見る目ないったら(笑)』

 みやびちゃんが一体どういう状態で話しているのか分からないけれど、背後で「そんな話までしなくていいの!」という声が聞こえた。
 みやびちゃんのお母さんも、何だか元気そうな声だ。

 治療の最終日、うちの母と久しぶりに会って話したいと言っていたことを思い出したけど、あのときどんな気持ちだったんだろう。

「ねえ、みやびちゃん、どこの高校受けるの?」

 みやびちゃんが通っている蒼月は6年制一貫ではなく、関連高校は県内でも全く違う街にある上、レベルもかなり低いので、そのまま行くとはとても思えなかった。

『え、と、多分東雲(しののめ)かな。駅から近いから、今住んでいるところからも通いやすいし』

 東雲は、私が最初は志望していたものの、諦めかけていた学校だ。
 地区で一番レベルが高い高校だけど、みやびちゃんなら絶対に合格するだろう。

「じゃ、私も東雲受ける!」
『え?』
「多分、真中君も東雲志望だよ。マチャは迷い中だけどかなり意識してるっぽいし」
『へえ、そうなんだ』
「一緒の高校に行って、また漫画の話したり、ソフトクリーム食べたりしようよ」
『うん!わ、なんかすっごく楽しみになってきたけど――漫画の話とかアイスとかは、高校行かなくてもできるでしょ?』
「あ…」

 みやびちゃんの話を聞いて、同情っていうか、かわいそうって気持ちが何となく湧いて、ついでにどうにか励まそうと思った結果、出てきた言葉が「同じ高校に行こうね」だったわけだけど、暴走してしまった。
 でも同情以前に、みやびちゃんは大好きで大切な友達なんだもん。
 素直にそんなふうに思えた自分に、ちょっと驚いてもいる。
 

『も少し落ち着いたら、そっち遊びにいくね。ていうか一緒に勉強しようか』
「うん、教えて教えて!マチャも誘おうかな」
『いいね、お願い』