「夕陽ー、俺とやんねー?」

「はっ? ま、いいけど、ちゃんとエスコートしてよね?」

 あはは……な、なんだかんだで英梨々もパートナー見つけてる……。

 相手は、矢田部くんだ。

 サッカーが得意な、ザ・夏の少年! みたいな男の子。

 上手くいくといいね、英梨々!

 私はふふっと笑いかけて、キョロキョロ周りを見渡した。

 あれっ? みんな残念そうにしてるのは、なんでだろう?

 あぁ、星宮くんがいなくなっちゃったからかな?

 みんな、星宮くんとパートナーになりたかったんだよね。

 それにしても、どこに行っちゃったのかな、星宮くん?

 私はここにいても溜息が漏れ出すだけなので、一旦抜けて、一休みすることにした。

 お気に入りの、花園にくることにしたの。

「わっ……」

 花園とはいえ、薔薇の花壇があって、ガラス張りのとっても涼しい部屋があるってだけなんだけど、私にとっては花園なんだ。

 でも、そこでなんと、話題の星宮くんが薔薇を愛でていたんだよっ!

 滅多に見せない、ふわりとした笑顔を薔薇に向けている星宮くんが絵になりすぎていて、慌てて目をこすった。

 その音に気がついた星宮くんが、ハッとした様子で私を見た。

 やっ、やばいっ、盗み見してたこと、バレちゃった!?

「えーっと……さようならっ」

 逃げるが勝ち!

 私は全速力で花壇を抜けようとした。……けど。

 星宮くんの不機嫌そう〜な手に腕を掴まれちゃって、逃げられてなくなっちゃった。

 うぐぐっ……バ、バレちゃったし、変に抵抗しない方がいいよね……? もうご機嫌斜めの状態だし……うぅっ。

「なんで月姫がここにいる。恋愛学の途中だろ」

「えっ、私の名前、覚えててくれたんですか? 意外と真面目なんですね、星宮くんって」

 って、しまった、本音が漏れちゃって……。なんて言ったら、もっと怒られそうっ。

「意外って……俺のこと、どんなふうに思ってんだよ」

「星宮くん、やっぱりふつうに笑うんですね。全然笑わないって聞いてたので、びっくりしました」

「俺だって人間だ。笑わないわけない」

「ですよね〜」

 わぁ、意外にもふつうに会話できるし、ふつうに笑う人なんだ。

 星宮くんの印象、滅多に笑わない堅物から、堅物ぐらいには上がったかも!

「……今、めっちゃ失礼なこと考えてるよな、お前」

「……星宮くん、エスパーなんですか」

「ちげーよ。っつか考えてること認めんじゃん」

 堅物のエスパーに、また昇進したかも?

「っていうか、星宮くんこそ恋愛学に出なくていいんですか? 星宮くんとパートナーになりたい人、沢山いますよ?」

「面倒くさいじゃん、パートナーとかデートとか。俺は、なにも知らないやつと模擬だとしても付き合いたくない」

「ふーん……私と同じなんですね」