中学生の園部(そのべ)奈々子(ななこ)は毎月末になると、財布の中を整理する習慣があった。
 買い物で発生したクーポン券の有効期限が、大抵月末だからだ。
 使わなきゃと焦っていて結局使えなかったり、使う気がないのに財布に入れっ放しで忘れていたものを見直したり。
 がっかりすることも多いけれど、もう「使わなきゃ」って考えなくていいと思えばホッとする。奈々子は後者の方が多かった。

 翌日になったらここに、毎月の小遣い「3,000円」をお迎えする。
 入出金があったとき、小遣い帳をつける習慣があったから、大体のお金の流れはつかんでいるけれど、お財布の小銭入れには翌月繰り越し分の320円があった。
 (今月はまあまあ、かな)
 そのうちの200円を残し、120円を貯金箱に放り込んだ。



 貯金箱に入れる小銭はそのときの気分によって額も割合もまちまちだし、貯金箱から小銭を出して、財布の中の500円や1,000円と逆両替することもあった。今はただ、小銭入れに200円くらい欲しいなという気分だっただけだ。

 暑くなってきたから、どうしてもジュースやスポドリなど買ってしまうけど、外出のときは、できるだけ水筒で麦茶を持って出るようにしたし、アイスも家に母親が買い置きしたのを食べたり、業務スーパーで買ったりした(ゴリゴリ君がコンビニの半額で買える!)。

 明日から8月で、きっともっと暑さが厳しくなるだろう。
 その上、月末までほぼプライベートタイムなので、結構お付き合いもありそうだ。「お盆玉(お盆の小遣い)は少し期待できるけど、お年玉よりは額が少ないこと多いからなあ…」と、取らぬ狸の何とやらで、8月のお小遣い計画をざっと立てた。

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 最初に断っておきたいが、奈々子はこの作業を趣味の一環としてやっているだけで、金銭のやりくりに苦労したり、欲しいものがあって金を貯めたりしているわけではない。
 貯金箱も、小さな南京錠のついたものを使っているので、割ったり缶切りを使ったりせず、簡単に出し入れができる。
 中身を全部机の上に出して、コインの山を作ったり、きちきちにたたんだ札を伸ばしたりして写真を撮り、「現在の全財産♪」などとSNSにアップすると、リアル知人でもあるフォロワーから「3いいね」くらいつく。

 一度だけ、「そういう写真をアップすると、貧困女子だと思われて、どこかの助兵衛なオジサンに、ボクが助けてあげるよ、なんて言われちゃいますよ 笑(合間に絵文字満載)」という、おじさん構文丸出しの気持ち悪いDM(ダイレクトメール)が来たことがあったので、それを機会にDMの解放をやめた。よほどさらしてやろうかと思ったけれど、報復が心配なのでやめた。

「あ、これ使うの忘れてた!」

 それはカードなどを収納できるスペースに二つ折りにして入れていたレシートで、下の3、4センチの部分がアイスクリームの無料クーポンになっていた。
 「新製品を買うと同じシリーズの従来品を一つプレゼント」という、コンビニでよくやっている新製品販促キャンペーンのようなものだった。
 もらったタイミングではまだ使えず、有効期限も中途半端だったので、忘れないようにしなきゃと気を付けていたつもりだったが、あと2日で失効するようだ。

 翌日は夏期講習が2時前に終わるので、その帰りにコンビニに寄って引き換えよう…などと考えながら、奈々子は財布にメンバーズカード、クーポン、そして200円を収納し、床に就いた。