「……あーあ、私の初心がことごとく傷つけられる……」

数時間かけても解けなかった数学の問題から目を離して小さく伸びをする。

「お前、初心なんてあったのか?」

……。

気のせいかな、今、翔の声が聞こえたような……。

「おーい、みなさーん。聞こえてますかー?」

恐る恐る後ろを振り返ると、やっぱり翔の姿があった。

「かっ、翔!?なので私の部屋にいるのよ!?」

ていうか、いつからいたのっ!?

私、変なこと言ってたらどうしよ……。

「はぁ?行くって言ってたろ?みなが数学教えてって言ったんじゃんか」

「……確かに、そういった覚えが、無くはない……」

さすがに今の学力じゃ志望校に受からない気がして、翔に勉強教えてくれるように頼んだ気も……するわ。

うん。したした。

「はいはい。で、分かんないとこって……ここか」

「……っ」

翔が私の手元に顔を近ずけて、必然的に私の顔と翔の顔の距離が近くなる。

……落ち着け私。

こんな距離、小さい頃に比べたらなんて事ない。

「……みな、どうかしたか?」

「ふぎゃぁっ!」

さっきの距離のまま翔が私の方を見てそう言うから、翔の吐息が少しかかる。

「なんだよ、ふぎゃあって、赤ちゃんか?」

やっぱり無理ぃ……っ!