「おはよ、みな」

夏休みが開けて、風が涼しく感じるようになった九月の中旬。

二学期一発目の登校の途中に、大好きな人の声が私の名前を呼んでいるのが聞こえて、後ろを振り返る。

「お、翔じゃん、おはよう。今日は早いね」

毎日、授業が始まる合図のベルと同時に教室に入ってくる翔にしては珍しくて、少し驚く。

「まぁな、今年は受験生だし、生活態度を改めてみた」

そう言って髪をサラッとかきあげる仕草をした翔。

……今年入ってからもう九ヶ月経つんですけど。

……はぁ。

「……とか言って、本当は少しでも早く華ちゃんに会いたいんでしょ」

少し呆れ気味にそう言うと、翔は誤魔化すことなく頬を赤らめる。

それを見て私の心が少しだけ傷ついたのは、ここだけの話。

「……ま、せいぜい頑張ってよ。彼女いない歴=年齢の谷口翔くん」

「うるせっ!ていうか、それはお前も同じだろ!?」

「ざんねーん。私は彼氏はいないけど、翔よりは一枚上手ですぅ」

「はぁ?彼氏いないのに俺より上とか有り得んだろ」

意味がわからないとでも言いたげな翔に、私はドヤ顔を返して、先を歩く。

「それが、有り得るんだよなぁ」

……だって、翔より片思い歴長いもんね。