私立、清蘭学園。
人々が集い、学び、青春を謳歌する学園。
そんなこの学園に今日、転入生がやってきた_____


「ねぇ聞いた?今日転入生が来るんだって!」
「男の子かな?女の子かな?」
「やっぱり理想は高く!カッコいい男の子がいいなぁ〜」

「女子は盛り上がってんな〜」
「な、まぁ俺らも楽しみではあるんだけどなぁ…」
「女子は男がいいって言ってるけど、俺ら男子からしたら女子がいいに決まってるよな〜」
「なぁ、蒼紀はどう思う?」
「…いや、どういう流れで俺に来るんだよ……」
「いや、やっぱり転入生とは仲深めたいっていうか?」
蒼紀 風麻。
彼もまたつい最近この学園に転入してきた身である。
転入してきてまだ日が浅いというのに、彼の人気は絶大だった。
同学年のみならず、2年生や3年生などの先輩までもが彼に惚れた。
そのせいか、今ではファンクラブがありこの学園の殆どの女性が入っているとか…
「どっちにしろ俺は興味ない。お前らだけで盛り上がっとけ」
「なんだよつれねぇなぁ…」
「つれなくて結構。俺は人と関わるの苦手だし」
「とか言って俺らと話してくれんの、嫌いじゃないぜ」
「うるせ、」

教室でそれぞれが盛り上がっていたその頃……

「やばいやばい!遅刻する〜!」
「羽菜!メガネつけて!」
「は、はいっ!」
「髪型整えて!」
「はいっ!」
「仕上げに声低く!」
「はい!」
「あなたの名前は?」
「紫苑悠です!」
「よろしい!」
「…というか、私がなんでここまでしなきゃなの〜…」
「私じゃない!一人称は僕!わかった?!」
「は、はひっ、!」
「全く……学校ではボロ出さないようにね」
「う…わかってるよ〜……」
「ほら、行ってらっしゃい!」
「行ってきます〜…」


「はぁ……なんでこんなことしなきゃなんだろう…」
…まぁ、原因は私にあるんだけどね……
「…ずっとくよくよしてても仕方ない!前向きじゃなきゃ私じゃない!」
「よしっ!頑張るぞー!!」






「は〜い、みなさん席についてくださ〜い」
「知っているかもだけど、今日は転入生がいるわ」
「さ、入ってきてちょうだい」

「紫苑悠です、!これからよろしくお願いします!」

「待って待って、想像以上のイケメン…!」
「声可愛い系男子…!」
「女子じゃなかったか〜……」
「まぁまぁ、気楽に話せる相手増えたってことで」
「じゃあ紫苑さんは……蒼紀さんの隣の座ってくれる?」
「……え」
「わかりました!」
「じゃあ蒼紀くん、手を挙げてくれるかしら」
「……はぁ…はい…」
「あの子の隣ね」
「はいっ!」
「よろしくね、蒼紀くん!」
「…よろしく」
俺はこの時、感じ取った
コイツは絶対に人気が出る。
顔も良いし、声もいいし、尚且つ笑顔もいい。
こんなやつがモテないなんて、考えられなかった。
それと同時に、不安が渦巻いた。
もしかしたらコイツも、この笑顔の裏に何か隠しているんじゃないか。
そんな不安と、少しの恐怖が俺を襲った。
笑顔を振りまいている奴に限って、裏の顔があったりする。
コイツが、そうだったら………
そう考えると、関わりたくないと思った。
俺は元々、人が好きな方ではない。
話すと疲れるし、何よりあの高いテンションについていけない。
それを理由にすれば……少なくとも、関わらずに済むだろう。
「…?蒼紀くん、どうかした?」
「…いや、なんでも」
関わらないと決めたはいいものの、勘付かれてはいけない。
いつ機嫌を損ねて、本性を見せてくるか、わからないから……
俺は、人とは関わらないんだ




「ねぇ蒼紀くん、好きなものとかある?」
一限目が終わり、隣の転入生…悠が話しかけてきた
「…特に……」
「絶対嘘でしょ。人間好きなものとか嫌いのものの一つや2つあるに決まってる!」
「俺は赤の他人に個人情報を教えるつもりはない。ましてや今日来たばっかのやつにはな。」
「えー、なにそれ……つれないなぁ…」
「…お前もそういうタイプの人間かよ…」
「え?何、そういうタイプって」
「あーいや、なんでもない」
「ねー、教えてよ。好きなもの。」
「だから無理。教えることなんてしない」
「僕も言うからさ〜」
「お前の好きなもの聞いて得な奴誰もいないだろ…」
「まぁそうだけど…」
「はぁ…俺はもう行くからな」
「え、行くってどこに…?」
「お前に言う筋合いはない。じゃ」
「え、あ、ちょ…っ!」




「随分強引に来たね…」
「あいつがしつこいだけじゃないか……?」
「僕からしたら風麻も結構しつこいけどね〜」
「なんか言ったか馬鹿」
なんかふわふわしてるコイツは水崎歩羽。
“ふわ”って名前だけに結構ふわふわしてるやつ。
けれど意外と毒舌だったり腹黒だったりする。
そしてまぁまぁ頭が悪い。初めの中間テストは平均が20点だったらしい。
「あっはは、風麻くん最低〜」
「思ってないくせに…」
「まぁまぁ、落ち着いて」
コイツは喜咲亮。1番しっかりしていて、俺らをまとめる係。
コイツが居なかったらここは今頃地獄と化しているに違いない…
「落ち着けるもんか……」
「それはどうして?」
「俺が転入生を頑張って振り解いてここまで来たってのに…」
「なんでコイツは寝てんだよ!!!」
「残念だけど、俺は事情を知らない」
「僕も〜。来たらもう死んだように寝てたし」
「ったく……起きろ一樹。」
今俺の目の前で寝てるのは美酉一樹。通称いっつー。
馬鹿だけどまぁまぁ頼りになる奴。馬鹿だけど。

そしてこの3人と俺は、この学校の生徒会メンバーだったりする。亮が会長で、いっつーが副会長。歩羽が書記で、俺が会計。
3人は元々この学校にいて、1人足りないからと行われた選挙に遊び半分で立候補したら見事当選。その時は後悔したけど、今はさほど後悔していない。
「んー……もう5分……」
「起きてんじゃねぇかよ。」
「起きてないよ〜………」
「返事してるんだから起きてるだろ、ほら、しっかり起きろ。」
「え〜……無理……」
「いっつー。お疲れなのはわかるけどせっかく風麻も来てくれたんだしちゃんと起きな?」
「ん〜………」
「今度一樹くんとスイーツパラダイス行こうと思ってチケット取っておいたんだけど……要らないかぁ……」
「え、スイーツパラダイス…!!」
「行きたい?」
「行きたい!!」
「じゃあ起きててね〜」
「う……スイーツパラダイスの為…頑張る……」
「…お前ら…ほんと扱い方わかってるよな…」
「まぁ、長い付き合いだからね」
「一樹くんも起きたわけだし、早速始めますか〜」
「うぅ……なんで授業中にまでやらなきゃいけないんだ…」
「元はと言えばいっつーが仕事を貯めたのが悪いからね」
「お前も人のこと言えないけどな」
「あはは…面目ない……」
「みんなで手分けすればきっとすぐ終わるよ〜!」
「そうだね!」






「終わったー!!」
「あ”ー…疲れた……」
「なんだかんだもうお昼だね」
「食堂行こ〜」
「俺はパスで」
「え〜、風麻つれないなぁ……」
「その言葉聞くの今日で3回目だよ、流石に聞き飽きた」
「じゃあ風麻くんはみんなからつれないって思われてるってことだ」
「それを言われて嬉しい奴なんてよっぽどいないよ」
「あっはは、確かにそうだね〜」
「何気に風麻、一回も一緒に昼食べたことないよね」
「だね。俺もたまにはって思うんだけど、どう?」
「………ったく、もう暫くねぇからな」
「お!風麻くんカッコいい〜!」
「からかってるだろ歩羽。」
「あ、バレた?」
「お前なぁ……」
「ほら2人とも。早く行かないと席埋まっちゃうから、早く行くよ。」
「あ、は〜い!」
「はぁ………ほんとに疲れる……」
コイツらといると、普段の比じゃないくらい疲れる。
けど、今まで生きてきた中で、俺が1番信用できるのがコイツらだから…
コイツらは、失えない。


「…あ、」
「うげ…」
「?風麻、知り合い?」
「転入生、さっき言ってた」
「あ、紫苑悠って言います!よろしくお願いします!」
「よろしくね〜」
「ところで蒼紀くん!どこ行ってたの!」
「お前に言う必要ないだろ…」
「言ってあげなよ風麻」
「…俺は生徒会入ってるから、その手伝いしてただけだよ」
「生徒会…てことは、皆さんも生徒会の人たちですか…!」
「うん、そうだよ」
「転入初日で生徒会に会えちゃうなんて…!幸先良さそう…!」
「あ、せっかくだしキミも一緒にお昼食べる〜?」
「は、ちょ、歩羽…!」
「え、いいんですか…!」
「転入生と仲を深めるいいきっかけだし、一緒に食べよ」
「大人数の方が楽しいもんね!」
「てことで、風麻もいいよね?」
「ぐ……っ、しょうがない…」
「!ありがとうございます!」
コイツにとっては良い出来事なんだろうが………
俺にとっては最悪な出来事だ…