「時生さん? こないだは酷いこと言ってごめんなさい」
「いや、構わないよ。嘘ついてたのは俺のほうだし」
「仕事のこと言ってるんじゃありません」
「え?」

 時生が不思議そうに首を傾げている。

「私にも時生さんにも同じように親がいて大切に育てられて、私が親に少しでも楽させてあげたいって思うように、時生さんにもきっとそういう思いはありますよね」
「まあね。一応俺も俺なりに考えてるんだよ。このままずっとバイト生活続けようなんて思ってないし、就職活動だってやってるよ。早く親を安心させてやりたいって思ってる」
「そうですよね」
「でも結局はさ、親も子も考えることは同じで、願うのは互いの幸せなんじゃないかな」
「そうですね」

 美和子は月を見上げ、家族の笑顔を思い浮かべる。

「美和子ちゃんが幸せだと思えてるなら、ご両親は幸せなんだよ。きっとそれ以上のことは望んでいないんじゃないかな」

 時生の言葉が、心にストンと落ちてきた。


「月の神様が引き合わせてくれたんですかね?」
「え?」
「私も時生さんに会いたかったんです」
「ロマンチックなこと言うね」
「だって、今日は十五夜ですよ」
「ああ、道理で月が綺麗なわけだ」

 月明かりに照らされた時生の横顔を眺めながら呟く。

「ハンバーグが食べたい……」
「え? そこは月見団子じゃないの?」

 時生が声を上げて笑う。

「時生さんは、お月見って豊作を祈願したり収穫に感謝したりする行事だって知ってましたか?」
「うん、知ってるよ」

 時生はまた月を見上げている。

「何で月なんだろうって思って調べてみたら、昔は月の満ち欠けを見て農作業を行ってたみたいで、月の神様を招く為にススキや月見団子を用意するみたいなんです」
「へえ、それは知らなかったな」
「でも、うちの母はちょっと天然な人で、ただ綺麗なお月様を大好きな人と見る日だと思ってたんです」
「素敵だねえ」

 話に耳だけ傾けて頷いていた時生が視線を向ける。

「だからうちのお月見はちょっと変わってて、家族揃って月を眺めながら、みんなが大好きな母の手作りハンバーグに、父が作った満月に見立てた目玉焼きを乗せて食べるのが風習なんです」
「いいねえ、それ」
「きっと今日もです」
「あ、じゃあ早く帰らないとね」

 時生がベンチから立ち上がる。

「あの……良かったら、時生さんも一緒にどうですか? お月見」
「え、いいの?」
「それが、うちの風習ですから」





【完】