『話がある』と時生からメッセージが届いたのは、翌日の朝だった。
 その夜、駅前のカフェで顔を合わせた時生は、昨日と同じように気まずそうな表情を浮かべながら、言いづらそうに切り出した。

「ずっと話さなきゃいけないとは思ってたんだけどさ……」
「何ですか?」
「実は俺、弁護士ではないんだ」
「ああ、やっぱり。じゃあ時生さん、私を騙したってことですか?」
「いや、そんなつもりじゃなくて、言いそびれたっていうか……でも、そう思われても仕方ないかな。ごめん」
「酷い……」
「ごめん」
「嘘つき」
「ほんとごめん」

 美和子が何を言っても、時生は謝罪を繰り返すばかりだ。

「どうしてそんな嘘を?」

 美和子は時生と出会った合コンを思い返す。

「あの日の合コンは、知り合いに頼まれて人数合わせの為に参加しただけだったんだ」
「ああ……ありがちなやつですね」
「メンバーとももちろん初対面だったんだ。俺以外はみんなお堅い仕事に就いてるって聞かされて、適当に合わせて欲しいって頼まれたんだ。まさか誰かと付き合うことになるなんて思ってなくて、つい……」

 責めるのは間違っているとわかっていた。

「でも、嘘つきは嫌いです」
「ごめん。でも……」

 言いかけて、時生は口ごもった。

「何ですか?」
「いや……」
「はっきり言ってください!」

 美和子は語気を強めた。

「じゃあ、俺の仕事がバイトの警備員だってわかってたら、美和子ちゃんは俺と付き合ってた?」

 時生の不意討ちに、美和子は言葉を詰まらせた。

「あの合コンに参加したってことは、やっぱりそういうことだろ?」
「……」

 図星を突かれ、返す言葉が見付からない。
 それだけが目当てという訳ではなかったが、エリート男性との恋愛や結婚という淡い期待を抱いて参加したのは事実だ。二十六にもなれば当然だろう。
 結局というのか当然というのか、あの日の合コンがきっかけでカップルになったのは、美和子と時生だけだった。
 けれど、美和子の思い描いていた未来予想図は白紙に戻った。

「時生さん? 私、貧乏は嫌なんです」
「まあ出来れば俺もそれは避けたいと思ってるけどさ」
「時生さんには私の気持ちがわからないと思います。ご両親は公務員で、それなりの環境で育ってきて、それなりの教育受けて、当たり前に大学も出て――」
「確かに、育った環境は違うから、俺には美和子ちゃんの気持ちはわからないかもしれない。当たり前に大学も出たけど、結局今はバイトで食い繋ぐ生活してる。これが貧乏だって言われればそうなのかもしれない。でも、情けないけどこれが現実だから、今は何を言われても仕方ないと思ってるよ」

 時生が苦い表情を浮かべながら、返事を待つように視線を向けている。

「少し考えさせてください」
「……わかった」

 胸が苦しくなった。
 時生はどんな未来予想図を思い描いていたのだろうか。