和輝のテンポに合わせて、ゆっくりと、いくつかの作品を眺めながら言葉を交わす。

すると、不意に和輝が立ち止まって、杏奈の横から見下ろして言った。

少し、頬が赤い気がする。


「立花が、あの日…あの写真をあんな風に評価して、良さを言語化してくれて、すごく嬉しかったよ。」


「そ、そうですか…?」


なんだか照れくさくなって、和輝から向けられる目線から自分の目線を逸した。


なんと返せばいいか分からず、曖昧な笑いで誤魔化しながら「思ったことを正直に口にしただけです」と言った。

和輝は頭を軽く振りながら「いやいや、それがよかったんだよ。」と言って言葉を続ける。

「撮影者のイメージに引っ張られて作品を評価する人もいるから。副部長やってると、余計にね。
褒められる度に、気を遣われてるだけのような気がして素直に喜べないし。
あの時、初対面の立花に褒められたっていうのが、俺には響いたよ。
自分の感性をもう一度信じられるようになったのは、立花のおかげ。」


そう言って、穏やかに微笑む和輝に真っ直ぐ見つめられ、杏奈の顔は一気に火照った。


「よ…喜んでいただけたのなら…よかったで…す。」


顔を真っ赤にした杏奈が目線を落として俯いたたま言葉を返すと、和輝の手がポンポンっと杏奈の頭に触れた。


「…ありがとな。」


そう言って、和輝はまたゆっくりと歩み進めた。

杏奈も、和輝の後ろから再び歩みを進める。


──センパイの手…大きかったな。


和輝の手が触れたところの感覚が、まだ残っていて、嬉しかった。



その後、最後まで、和輝と作品を見て回った。

和輝と2人きりで会話する機会は、そう多くはない。


だからこそ貴重な時間だったのに、和輝に視線を向けられる度に妙に意識してしまい、
いつも以上に心臓が脈打って、落ち着かなかった。


──私、山下センパイのこと…好きなんだ。


展示会を一通り見終わった後、
部員達とランチをするためにファミレスに向かう途中、
和輝の笑顔を遠くから見つめながら、
杏奈は改めてそう思った。