そんな私が蓮水さんオタクになったのは、忘れもしない、高校入学試験当日のことだ。
受験票を落としてしまい、学校の前で狼狽えていた私に、そっと無くしたはずの受験票を差し出してくれたのが蓮水さんだった。
中学生のころの蓮水さんは学ランを着ていて、髪色は茶髪だったのを覚えている。
パッと見ただけで、【不良だ】っと思って一瞬怯んだ私に、蓮水さんは少しだけ口角を上げて笑ったんだ。
「今どきこんな典型的な根暗オタク、存在するんだな。ダサすぎて遠目でこれがお前のだって速攻で分かったわ。」
受験票に貼り付けられているダサい姿の私の写真と、目の前にいる実物の私を見比べながらも、拾ってくれた受験票を私に渡してくれた。
それを受け取るときに、少しだけ蓮水さんの指に触れてしまった瞬間、身体中を電流が駆け巡ったような感覚に襲われた。
「っま、頑張れよ根暗オタク」
───頑張れ
出会って数十秒のイケメンに言われたその言葉は、家族の誰一人言ってくれなかった・・・私が求めていた言葉だった。
その瞬間、私は決めたんだ。
──あぁ、この人の為に生きよう
なんて、単純な出会いに対して大袈裟すぎると言われるかもしれないが、この時の豆腐メンタルの私の心をケアしてくれたのは、間違いなく蓮水さんだった。
消えてしまいたいと思っていた自分の人生、この人の為に生きてみるのも悪くないかな、、
なんて・・・まだどちらも入学が決まったわけでもないのに、生きる意味みたいなものを見つけられた気がして、とても清々しかったのを記憶している。