「だから私、隠し事する人は大っ嫌いなんです!」
「そうだよなあ……って、えっ、もしかしてそれって俺に言ってる?」
「どうしてですか?」
「君の目がそう言ってる」
 もう二度と同じ経験をしたくないという思いと、絶対に裏切らないで欲しいという願いが強すぎるあまり、無意識に圧を与えていたのかもしれない。
「だって部長、口癖みたいに『内緒』って言うから、もしかすると色んなことを隠してるんじゃないかって……」
「いや、それは――」
 語気を強めたかと思えば急に口ごもった部長が、露骨に大きなため息をついた。
「逆効果だったかな」
「逆効果?」
 麻莉亜は首を傾げて聞き返す。
「俺はただ、君のことがもっと知りたくて」
「はい?」
「君に心を開いてもらうには、まずは俺が全てをさらけだすのが筋だろう」
 そんな言い方をされれば、誰でも勘違いしてしまいそうになる。
「あの、部長……? 仰ってる意味がわからないんですけど……」
 眉をひそめて、ううんと唸っていた部長が口を開く。
「陰で堅物って言われてる俺が、いきなり君を食事になんて誘ったら、考慮もせずに断られるのが目に見えてる」
「え? あの、それは――」
「ああ、わかってるよ。今言ったことは全部忘れてくれ」
「はあっ!? そんなの無理です!」
「えっ!?」
 部長は麻莉亜の剣幕に面食らっているようだが、そこまで聞かされて、なかったことに出来るほど麻莉亜は能天気な性格ではない。それは、部下の一人としてではなく、間違いなく麻莉亜個人に対する好意的な言葉だとわかる。
「部長は誰かから秘密を打ち明けられたことないんですか?」
「え、どういうこと?」
 部長は訳がわからないという表情を向けている。
 麻莉亜は乱れた呼吸を整えるようにひとつ深呼吸をしてから続けた。
「『内緒』って言われると、余計に頭に残っちゃうもんなんですよ。それがたとえ大した事じゃなくても、聞かされた側は口を滑らせないようにしなきゃって思うから、ずっと頭から離れないんです。聞かされた相手のことも……忘れるなんて無理なんです」
「ああ、そうか。何か悪いことしたね、申し訳ない」
 そう言うと、またもや部長は眉をひそめた。
 謝って欲しいわけではない。簡単に謝られると無性に腹が立つ。やはり察する力が弱いようだ。
「ただ……隠し事は嫌いですけど、もしもそれが私にだけ打ち明けてくれる秘密だとしたら、嫌な気はしませんよ」
 仕返しのように、麻莉亜はあえて遠回しに言った。
「え、それはどういう意味だい?」
 間髪入れずに部長が尋ねる。
「それはもちろん……内緒です」
「――っ!」
 さすがに気付いただろう。部長がやっと、恨めしそうな顔を見せた。