20時半――

ミカエルとウリエルの歓迎会が終了し、子供達は先にアリアドネに連れられて部屋に戻ることになった。

「皆さん、今夜は僕とウリエルの為に歓迎会を開いて頂き、ありがとうございました」

ミカエルは丁寧に挨拶をし、弟のウリエルは眠そうに目を擦っている。

「ウリエル様、お部屋に戻ったらすぐにお休みの準備を致しましょうね?」

アリアドネはウリエルの手をつなぎ、声をかけた。

「うん……」

何とか返事をするウリエル。

「それでは私はお2人をお部屋に戻りますので、失礼致します」

丁寧に頭を下げるアリアドネにエルウィンは声をかけた。

「ああ、ご苦労だったな。部屋には戻れるか? もし無理なら俺が案内を……」

するとロイが口を挟んできた。

「案内なら俺がします」

「え!?」

あまりの突然の発言にエルウィンは驚いてロイを見た。
それだけではない。
シュミットとスティーブも同様に驚きを隠せずにいた。

尤も……この中で一番驚いていたのはアリアドネだったのは言うまでもない。

(そ、そんな……! 一体ロイは何を考えているの? 仮にも城主であるエルウィン様の言葉を遮るなんて……っ!)


「ほう……やはり……な」

一方、1人この状況を面白く捉えているのはオズワルドだった。
彼は小声で小さく呟き、不敵な笑みを浮かべてロイを見つめている。

「お前……っ! 城主であるエルウィン様に向って何て態度を取るんだっ!」

この歓迎会の最中、ずっとオズワルドとロイに不満を抱えていたスティーブがついに我慢できずに声を荒らげた。

「俺はミカエル様とウリエル様、それにそこのメイドの護衛騎士だ。付き添うのは当然だろう?」

目上の者にもぞんざいな口をきくロイを見てアリアドネは生きた心地がしなかった。
そんな様子の2人をミカエルは怯えた様子で震えて見ている。

「何だと!? 貴様……っ!」

スティーブがますます苛立ちを募らせたその時。

「やめろっ! スティーブッ!」

エルウィンが声を上げた。

「あ……大将……」

青ざめた顔でスティーブはエルウィンを見た。

「落ち着け、スティーブ」

「は、はい……」

渋々スティーブが着席すると、エルウィンはロイを見つめた。

「良く考えてみればロイがミカエルとウリエル……それに2人の専属メイドの護衛騎士になったのだから、お前が3人を部屋に案内するのは当然だったな。分かった、それではお前が部屋まで送ってやってくれ」

「はい、承知致しました」

ロイは席を立つとアリアドネを振り向いた。

「……部屋に戻るぞ」

「は、はい……。ではミカエル様、ウリエル様。お部屋に戻りましょう、皆様。失礼致します」

再度アリアドネは頭を下げると、ロイを先頭に部屋を出ていった――



4人がダイニングルームからいなくなると、すぐにオズワルドがエルウィンに詫びてきた。

「エルウィン様。ロイが失礼な態度を取ってしまい、大変申し訳ございませんでした。後で良く言って聞かせておきますので」

「ああ、全くだ。何だ、あの生意気な態度は」

スティーブはイライラしながらオズワルドを睨みつけた。

「別に気にすることはない。まだまだあいつは若いからな」

しかし、肝心のエルウィンは然程気にもとめた様子も無く、お気に入りのワインを口にした。
今のエルウィンはワインのお陰で気分が良かったのである。

「ありがとうございます。流石は我が城主様だ、懐の大きさが違う」

オズワルドはここぞとばかりにエルウィンに媚を売る。

「そうか? まぁそう言われると悪い気はしないな」

エルウィンはまんざらでもない様子でオズワルドと会話を続けている。
そんな2人を苛立ち紛れに見るのはスティーブだけでは無かった。

シュミットもまた不快な気持ちでオズワルド見つめていた。


(一体オズワルド様は何を考えておられるのだ? この間まではエルウィン様のことを暴れん坊で情けない城主だと言っておられたのに……この手のひらを返したような態度は一体…?)

次にシュミットはエルウィンに視線を移した。

(それにしてもエルウィン様も困った御方だ。ワインを飲めば気が大きくなってしまうのだから。今に何者かに足元をすくわれないか不安になってしまう……)


そしてシュミットは思った。

今後は今まで以上にオズワルドの動きを注視しておかなければ……と――