エルウィンの執務室に辿り着いたシュミットとスティーブ。

シュミットは扉をノックしようとした時、部屋の中から聞こえてくる話し声を耳にしたのだ。


「どうした? シュミット」

背後に立っていたスティーブが声を掛けてきた。

「いや……誰か部屋に来ているようだ」

「もしかしてアリアドネじゃないか?」

「そうか、ひょっとするとミカエル様とウリエル様の件でエルウィン様を訪ねている可能性も考えられるな」

シュミットは頷くと、早速扉をノックした。

コンコン

『……誰だ?』

エルウィンの声が扉の奥から聞こえた。

「私です、シュミットです。スティーブも一緒です」

『入れ』

エルウィンからの返事が返ってきたのシュミットは扉に手を掛けた。

「失礼致します……」
「失礼します」


扉を開けて部屋の中へ入ったシュミットとスティーブは次の瞬間、目を見張った。
何とエルウィンの執務室にオズワルドがいたからである。

「オズワルド様……! な、何故こちらに……?」

シュミットはオズワルドに尋ねた。
オズワルドを嫌っているスティーブは眉をしかめ、口も利かない。

「何故? エルウィン様に用があったので訪ねてきたに決まっているではありませんか」

オズワルドはどこか高圧的な態度でシュミットに答えた。

「つい、先程オズワルドが俺を訪ねてきたのだ。ミカエルとウリエルの護衛騎士にロイを任命したいと言ってな」

エルウィンが腕組みしながらシュミットとスティーブを交互に見た。

「ええ。ロイは私の直属の部下ですし、隊の中で一番腕が立つ。年齢も17歳と最も若く、ミカエル様とウリエル様に一番年齢が近い男です。あの者程、お2人の護衛騎士にふさわしい人物はいないでしょう」

オズワルドは尤もなことを口にした。

「何を言う! それならこちらの部隊にだって腕利きで、まだ10代の若い騎士は大勢いるっ! 大体、ミカエル様とウリエル様は既に南塔……我等の管轄区域に越して来たのだ! 護衛騎士を我等が担うのは当然のことだ!」

スティーブがオズワルドに食って掛かる。

「これだから何も事情を知らない者は困るのだ……感情ばかり先走る相手とは話にならないな」

オズワルドはどこか小馬鹿にしたような物言いをした。

「何だとっ……!」

スティーブが怒りを顕にオズワルドを睨みつた瞬間――

「落ち着け! スティーブッ!」

今迄口を閉ざしていたエルウィンがスティーブを止めた。

「……っ! は、はい……申し訳ありません」

スティーブは悔しそうに唇を噛んだ。

「シュミット、スティーブ。叔父上はミカエルとウリエルの教育をオズワルドに託していたんだ。2人の間で交わした書面も見せてもらった。あの書類のサインは紛れもなく叔父上のものだった」

エルウィンはため息をついた。

「つまり、ミカエルとウリエルの世話役の権限はオズワルドが握っているということだ。……俺たちが口出しする権利はない」

「そ、そんな……!」
「……」

青ざめるスティーブの隣でシュミットは拳をギュッと握りしめてた。

(オズワルド様は狡猾な方だ……。やはりミカエル様とウリエル様を我々に託したのには、何かそこに深い意図があるのかもしれない。一体オズワルド様は何を考えておられるのだ……?)


「よし……というわけだから、ミカエルとウリエルの護衛騎士はロイに決まりだ。分かったな? 2人とも」

「はい……」
「分かりました」

スティーブとシュミットは不承不承、承諾した。

「分かればいい。……あ、そうだ。シュミット」

すると、不意にエルウィンが思い出したようにシュミットに声をかけた。

「はい、何でしょう?」

「厨房にミカエルとウリエルの事は伝えに行ったか?」

「はい、伝えて参りました」

するとオズワルドが小首を傾げた。

「おや? エルウィン様。何かあるのですか?」

「ああ、実はミカエルとウリエルの歓迎会を今夜開こうと思っていたのだ」

「ほう…歓迎会ですか…?」

オズワルドの目が怪しく光った。

その姿を目にしたシュミットとスティーブが嫌な予感を覚えたのは……言うまでも無かった――