「それじゃ俺はリアをミカエル様とウリエル様の元へ連れて行きますから。いいですよね大将?」

スティーブがエルウィンに尋ねた。

「ああ、頼む」

頷くエルウィン。

「よし、それじゃ行こうか? リア」

スティーブはアリアドネに声をかけた。

「はい、それでは失礼致します」

スティーブに促され、アリアドネはエルウィンとシュミットに頭を下げた。

「ああ、2人をよろしくな」
「よろしくお願い致します」

交互に返事をするエルウィンとシュミット。


バタン……

2人が去り、扉が閉じられた後もシュミットはじっとアリアドネが出ていった方角を見つめていた。

「……」

エルウィンは少しの間シュミットの様子を眺めていたが、やがて声をかけた。

「シュミット」

「は、はい。エルウィン様」

「お前……ひょっとして……」

「何でしょうか?」

シュミットはエルウィンに何を問われるのかドギマギしながら返事をした。

「……いや、何でも無い。それよりも、今夜はミカエルとウリエルの歓迎会を開こう。お前とスティーブ……それにリアも招いて5人で宴でも開くか? 2人の好きな料理を出してやるように厨房に伝えてきてくれ。彼奴等は確かシチューが好きだったか?」

エルウィンは万年筆をクルクルと指で回しながらシュミットに命じた。

「それは良い考えですね。では早速厨房に伝えて参りましょう」

シュミットは席を立った。

「では、行って参ります」

「ああ、頼む」

バタン……

シュミットが出ていき、扉が閉ざされるとエルウィンはポツリと呟いた。

「シュミットの奴……ひょっとしてあの女のことを……? フン! まさかな。あの堅物が女に惚れるとは考えにくい」

エルウィンは自分こそ、堅物だということに全く気付いていない。

「フワァ〜」

そして大きな欠伸をすると、目を擦った。

「くそっ……書類を見ていると眠くなってくる。だから俺は事務処理の仕事が嫌いなんだ。早く越冬期間等終わってしまえばいいのに……俺には戦場が一番似合っているんだからな……」

ブツブツ言いながら、エルウィンは書類に目を落とした――


****


 一方、その頃――

ミカエルとウリエルの部屋では険悪なムードが漂っていた。
原因はオズワルドの腹心、ロイが2人の部屋にいたからである。

「……何で、お前がお2人の部屋にいるんだ?」

スティーブは、ロイがミカエルとウリエルの部屋にいた事に苛立ちを募らせていた。

「オズワルド様に今後はミカエル様とウリエル様、それにそこのメイドの専属護衛騎士になるように命じられたからだ」

ロイは無表情のまま答える。
一方、その言葉を耳にしたスティーブの眉が険しくなる。

「何だって? オズワルドが? だがな、ここの南塔にだって騎士は大勢いる。しかも全員がエルウィン様の直属の騎士で、皆精鋭揃いなんだ。第一今は越冬期間。外部から敵が襲ってくる可能性はゼロに等しい。それなのに護衛騎士が必要なのか?」

ピンと空気が張り詰めた中……ミカエルとウリエル、そして2人のすぐそばにいるアリアドネが固唾を飲んで見守っていた。

「……それをこの2人の前で言うのか? ミカエル様とウリエル様の前でランベール様は地下牢の中で何者かによって殺害されたのに?」

初めてロイは口角をあげた。

「「!!」」

ロイの言葉にビクリとミカエルとウリエルが反応した。

「ロイッ! お前……ミカエル様とウリエル様の前でっ!」

スティーブが声を荒らげた時。

「おやめくださいっ! お2人供! ミカエル様とウリエル様が怖がっています!」

アリアドネが震えているウリエルを抱きしめながら声をあげた。
その言葉にスティーブは、ハッとなった。

「……」

一方のロイは黙ってアリアドネを見つめている。

「あ……わ、悪かった。声を荒らげてしまって……」

スティーブはすぐに頭を下げてきた。

「い、いいえ……。大丈夫です。ただ、お願いですから……お2人の前では……ランベール様のことは……」

アリアドネの言葉にミカエルとウリエルが俯く。

「分かった。取り敢えず、今は引くことにするよ。本当に悪かった。それじゃ俺は行くよ」

(アリアドネを怯えさせたくはないからな……)

スティーブはため息をつくと部屋を出て行った――