「どうだ? ミカエル、ウリエル。ここが今日からお前たちの部屋だ」

エルウィンは新しく用意された部屋に2人の子供達を案内した。

「うわ〜ひろ〜い!」
「本当だ……。すごく広いですね」


ミカエルとウリエルは目をキラキラさせながら新しい部屋を見渡した。

広々とした部屋の天井は高く、大きな掃き出し窓からは雪に覆われた外の世界が広がっている。
大きな暖炉には炎が赤々と燃え、青いカーペットが床に敷き詰めてある。壁際には天蓋付きのキングサイズのベッドが置かれていた。

「ちょっと事情があって2人一緒の部屋になってしまったが、少しの間はこのままで過ごしてもらえるか?」

「いいえ! こんなに広いから2人同じ部屋で十分です」

「うん、僕もお兄様と同じ部屋がいい」

ミカエルとウリエルは交互に返事をする。

「そうか、それは良かった。衣装部屋は隣にあるからな。今夜からは一緒に食事をしよう」


「「はい!!」」

ミカエルとウリエルは元気よく返事をした――


****

 午後の執務室――

 
「エルウィン様。何だか機嫌が良さそうですね?」

仕事をしていたシュミットが不意にエルウィンに声をかけてきた。

「あ、やっぱり分かるか?」

エルウィンは顔をあげてシュミットを見た。

「ええ、分かりますよ。何しろ先程から鼻歌を歌われていましたからね」

「何? そうだったか?」

「ええ、そうですね。やはりミカエル様とウリエル様の件ですか?」

「当然だろう? 俺は以前からあの2人をあんな如何わしい場所に置いておきたくなかったんだ。けれど叔父上がいるのに俺が余計な口を挟めるはずもないだろう? だから目をつぶって我慢していたんだ」

「確かにお2人に取っは悪影響を及ぼしかねない環境でしたからね……」

シュミットはため息をついた。

「ああ、そうだ。だからな、俺は決めたぞ。今年の越冬期間が終われば、この城の大改革を行うんだ。今後一切娼婦の入城を禁ずるとな! 勿論如何わしい真似をするメイドもだ」

「エルウィン様の言わんとする事は理解できますが……それはあくまで理想論ではありませんか……?」

「何を言う? この話の何処が理想論なんだ?」

「ですが……」

そこまで言いかけてシュミットは口を閉ざした。
恐らくエルウィンの様に潔癖な人間には到底理解できないのだろう……と。

(これは何か他に対策を考えなければならないが……恐らくエルウィン様とでは話し合いにならないだろうな……)

シュミットが頭を抱えたその時。

――コンコン

扉がノックされた。

「誰だ?」

エルウィンが扉越しに向かって声をかけた。

『俺です、スティーブですよ。新しくメイドになったリアを連れてきました』

(アリアドネ様!?)

その言葉にシュミットは素早く反応した。

「ああ、そうか。それじゃ中へ入れ」

エルウィンの返事と共に扉が開かれた。


ガチャ……

扉がゆっくり開かれるとそこには黒のロングワンピースに真っ白な長いエプロン姿のアリアドネが現れた。
長い金の髪は後ろで1つに結い上げている。
そのメイド服姿のアリアドネはとても美しかった。

(アリアドネ様……)

シュミットはその姿に見惚れ、声をかけるのも忘れていた。

「どうです? 人とも。よく似合っているでしょう?」

スティーブがまるで自分のことのように自慢げに尋ねる。

「ああ、そうだな。よく似合っている」

エルウィンは腕組みしながら頷く。

「ありがとうございます」

アリアドネは深々と頭を下げた。

「……」

一方、シュミットは言葉を無くしてアリアドネを見つめるだけだった。
その姿を見たスティーブはまるでからかうようにシュミットに声をかけた。

「ハハハッ! 何だ? お前はリアのメイド服姿に見惚れたか?」

「なっ!」

一瞬スティーブは顔を赤く染め、ゴホンと咳払いした。

「い、いえ。大変よくお似合いです。リア様」

「ありがとうございます」

再び頭を下げるアリアドネ。

「い、いえ。そのようなこと……」

シュミットも慌ててアリアドネに頭を下げた。


「……」

そんなシュミットをエルウィンは意味深な目で見つめていた――