オズワルドがミカエルとウリエルを一度東塔へ連れて帰り、自室に戻ってきたときのことだった。

「一体どういうことだっ! オズワルドッ!」

興奮気味のドミニコとバルドがノックもせずに扉を開けて部屋の中に入ってきた。

「これは何とも不躾な方々ですな……。ノックもせずに勝手に人の部屋に入ってこられるとは。図々しいにも程がありますな」

他人に勝手に自分の領域を荒らされることを何よりも嫌うオズワルドは眉をしかめながらドミニコとバルドを交互に見た。

「黙れっ! 貴様のほうが余程不躾だっ! 一体何を考えておるのだっ!?」

バルドが眉間にシワを寄せてオズワルドを指さした。

「はて……? 私が一体何をしたと申すのですか?」

首を傾げるオズワルドにドミニコが怒鳴りつけた

「オズワルドッ! 貴様とぼけおってっ! 何故ミカエル様とウリエル様を南塔のあの生意気な若造に託したのだっ!?」

「そうだっ! ランベール様亡き後、我等の立場はどんどん衰退していっておる! 幸い我等にはまだミカエル様とウリエル様がいらっしゃるので、お2人の後ろ盾となって確固たる地位を得ようとしておったのに……! それを何だ! 何故勝手なことをした!」

バルドの興奮は止まらない。

「落ち着きなさい、お2人供。ミカエル様とウリエル様をエルウィン様に託したのにはそれなりの理由があるからです」

オズワルドはここで言葉を切り、ため息をついた。

「仕方ないですな……この際本当の事を申し上げましょう。実はミカエル様とウリエル様には私の言うことを聞くように密かに洗脳しているのです」

オズワルドは表情を変えずに淡々と語る。

「な、何……? 洗脳だと? まさミカエル様とウリエル様に!?」

「貴様、洗脳などと正気なのかっ!?」

ドミニコとバルドは突然のオズワルドの言葉に驚きを隠せない。

「ええ、それだけではありません。ミカエル様とウリエル様の侍女だったゾーイは愚かにもエルウィン様の私室に勝手に入り、しかもよりにもよってベッドの中に潜り込む等という暴挙を企てたのです。女性に対しては異常なほど潔癖症のエルウィン様のベッドにですよ?その為、激怒したエルウィン様に侍女を解任させられてしまった」

オズワルドは自分がゾーイを煽ったのにも関わらず、その事実は伏せて2人に説明する。

「ぬぅ……そ、それは……」

バルドは苦虫を潰したような顔つきで唸る。

「エルウィン様は、こう思われたことでしょう。それみろ、我らに人選を任せたからその様なふしだらな女が侍女になってしまったのだと。これでは我々の人格を疑われかねません」

「う……」

ドミニコは唸った。

「そこで、今回お2人をエルウィン様の元に託すことにしたのです。我等を信頼させて油断させる為に」

オズワルドの瞳が怪しく光った。

「何……油断だと……?」
「そうだったのか?」

バルドとオズワルドの態度が軟化した。

「ええ、それだけではありません。今回侍女ではありませんが、解任されたゾーイの代わりに専属のメイドをつけることにしました。実はその者を巡ってランベール様とエルウィン様の対立が起こり、結果ランベール様は投獄され、あの様な結末を迎えてしまったのです。つまり、エルウィン様にとってある意味特別な女性ということになります。彼女をほんの少しだけ脅したところ、専属メイドになることを承諾してくれましたよ」

オズワルドは不敵な笑みを浮かべた。

「全く……お前というやつは……」

「それで? その女を専属メイドにしてどうするつもりなのだ?」

バルドが先を促す。

「はい。そのメイドならエルウィン様の側に近づくことが出来るでしょう。そこで何か弱みが無いか調べさせるのです。きっとエルウィン様も彼女の前では油断するでしょうからな」

「なるほど……奴の弱みをつかむことさえ出来れば我等は優位に立てる」

ドミニコの言葉にバルドが頷く。

「勝機は我等にある……ということだな?」

「ええ、その通りです。どうです? ご理解して頂けましたか?」

「ああ、よく分かった」
「流石はオズワルドだな」


そんな2人を見て心の中でほくそ笑むオズワルド。

(ククク……本当に容易いものだな。人の言葉に簡単に騙されるとは……)

ドミニコもバルドもオズワルドの野心に気付くはずも無かった。

そしてエルウィンも――