「オズワルドッ! 貴様何故そのような勝手な真似をしたっ!?」

エルウィンは椅子から立ち上がると怒鳴りつけた。

「勝手な真似? それを言うならエルウィン様とて勝手な真似をされたではありませんか? 我々に断りもなく勝手にミカエル様とウリエル様の侍女を解任されましたよね?」

オズワルドは相手がこの城の城主であるエルウィンであろうとも遠慮はしない。

「それはあの女が勝手に俺のベッドの中へ潜り込んでいたからだ! ああいう女が俺はこの世で一番嫌悪するんだ! だからクビにしてやった! それだけのことだ!」

エルウィンの怒りは増すばかりである。

「それだけではありません。オズワルド様、貴方はあの夜エルウィン様に差し入れたワインに媚薬を混ぜましたね?」

シュミットが2人の間に割って入ってきた。

「ああ……と言う事はやはりあのワインを飲まれたのですな?」

何がおかしいのかオズワルドの顔に笑みが浮かぶ。

「ああ、そうだ。1本まるまる飲んだ。おかげでその夜は体が熱くて寝苦しくて仕方なかった。しかもベッドはあの女の香水が染みついていて、とてもではないが寝れないのでソファで一晩過ごしたのだぞ!? 解任するには十分過ぎるくらいだ!」

エルウィンはオズワルドを指さした。

「何と……。あの強力な媚薬入りのワインを全て飲み干されたのですか? それなのに正気を保っていられたとは……やはりエルウィン様は並外れた精神力をお持ちの方のようですな?」

「オズワルド! 貴様、自分で媚薬入りワインを大将に差し出しておきながら、何て言い草だ!」

ついにスティーブは黙っていられなくなった。

「何を言うのだ? 私はむしろエルウィン様の凄さに感心しておるのだぞ?」

「別にお前に褒められても少しも嬉しくはないがな。しかし、だからと言って何故あの娘をミカエルとウリエルの専属メイドにしたのだ!」

エルウィンはオズワルドを問い詰める。その一方で気が気で無かったのはアリアドネの事情を把握しているシュミットとスティーブである。
2人は落ち着かない様子でエルウィンをチラチラとみている。

その3人の様子で、勘の良いオズワルドは全て察してしまった。

(なるほど……シュミットとスティーブはアリアドネが実は伯爵令嬢だと知っているようだ。と言う事はあの2人がアリアドネの身元を隠して下働きの人間として働けるように便宜を図ったのかもしれないな。エルウィンには内緒で……)

「どうした? 黙っていないで答えろ!」

エルウィンは先ほどから何か考え込んでいるかの様子のオズワルドにイライラしながら指をさした。

「ええ。それはあの娘の評判が良かったからですよ。とても働き者だし、あの仕事場で働く者達の中では一番年若いので、まさにミカエル様とウリエル様の専属メイドにぴったりだと思ったのですよ」

「だが……!」

するとオズワルドは口元に笑みを浮かべた。

「ひょっとすると、あの女性を我々が居住する東塔に住まわせるのが心配なのでしょうか?」

「そうだ。何よりあの空間は特殊な場所だからな」

少しの間の後、エルウィンは返事をした。

東の塔……はランベールの息がかかった場所であり、ならず者の兵士たち数多く行き交うような場所である。それだけではない。一部のメイドたちは娼婦まがいの真似をする者もいるし、さらには娼婦まで住んでいるのだ。その様な場所にアリアドネを置くのは危険だと判断したからである。

「まぁ確かに……あの領域は治安が悪い場所なので、あの娘のように年若い女性が住むには不向きかもしれませんね。ならば、こういうのはどうでしょう? ここ南塔にはエルウィン様が苦手とする人種の者達は1人もおりません。ですのでミカエル様とウリエル様をこちらの南塔でお世話していただけないでしょうか? そうすればあの娘も安全な南塔で暮らすことが出来ます」

あまりにも意外なオズワルドの提案に3人の若者たちは言葉を失った――「