「ゾーイ様、何故私がこちらに伺ったかお分かりになりますか?」

シュミットは丁寧な口調でゾーイに語りかけた。

(一応、この方は子爵家の出身だからな……それなりの態度で接しないと……)

「さ、さぁ……何のことかさっぱり……」

しかしゾーイの顔は青ざめ、さらに身体は小刻みに震えている。どうみても心当たりがあるのは傍から見て取れた。

(全く、こんなにあからさまな態度でとぼけようとするとは……やはり、はっきり言わなければならないだろう)

シュミットは心の中でため息をついた。何しろエルウィンからは30分以内にクビにしてくるように命じられているのだから。

「左様でございますか……なら、はっきり言わせて頂きます。私がこちらに伺った目的は1つしかありません。ゾーイ様、エルウィン様の命により今ここでミカエル様とウリエル様の侍女の任を解かせて頂きます」

「な、何故ですかっ!? 何故私が解任されてしまうのですかっ!? お断り致します! 私以外に誰がお2人の侍女が務まるのですかっ!?」

ゾーイは激しく首を振った。

「え……?」

その言葉にシュミットは唖然とした。

(まさかエルウィン様の命を拒否するとは……仕方ない。女性に恥をかかせる趣味はないのだが……やむを得まい)

「ゾーイ様、昨夜エルウィン様のベッドに潜り込まれていましたよね。しかも裸同然の姿で」

「!」

ゾーイの肩がビクリと跳ねる。

「しかも、それだけではありません。事前に媚薬入りのワインを飲ませて」

「え!? や、やっぱり…エルウィン様はあのワインを口にされていたのですか? オズワルド様の言う通りだったのだわ……。だとしたら何故……エルウィン様は……ハッ!」

そこでゾーイは口を閉じた。自分が失言したことに気付いたからだ。

「そうですか。やはりあのワインには媚薬が仕込まれていたのですね……。なんて愚かな事を……」

シュミットはため息をつくと続けた。

「良いですか? エルウィン様は誰よりも潔癖で娼婦を嫌っているお方です。それなのに貴女は娼婦の真似事のような行動を取られました。それだけではありません。よりにもよってエルウィン様のベッドにあの方の大嫌いな香水の香りを移すなど……。大層ご立腹されておりました」

「そ、そんな……」

ゾーイの身体の震えは止まらない。

「で、ですがいくらエルウィン様でも……わ、私は亡きランベール様の命により侍女を務めておりますので任を解くなど……」

するとその時――

「シュミットさん、ゾーイは僕達の侍女にふさわしくありません。どうぞエルウィン様のおっしゃる通り、クビにしてください」

はっきり、よく通る声でミカエルが言った。

「ミカエル様っ? 話を聞いていたのですか?」

シュミットは驚いた様子でミカエルに顔を向けた。彼の背後にはスティーブ、そしてウリエルの姿もあった。

「はい。シュミット様。ゾーイは僕達の侍女でありながら騎士達の元へ入り浸り、ろくに侍女としての役割を果たしてはくれませんでした。そうだろう? ウリエル」

ミカエルはウリエルを振り返った。

「うん、そうだよ。しかもこの事を他の誰かに言いつけたら勉強の課題を増やすって僕達を脅していたんだ」

実はウリエルもゾーイを嫌っていたのである。

「ミカエル様! ウリエル様! な、何て事を仰るのですか!? わ、私はその様な真似は……」

「していないとは言わせないぞ ?ゾーイ。お前が俺の部下達に色目を使っていたことを知らないとでも思っていたのか?」

スティーブがさらに追い打ちを掛ける。

「……これで決まりですね。ゾーイ様、たった今侍女は解任致します。今すぐこの部屋を出ていって下さい。代わりに今日からはメイドとして働いていただきます」

「そ、そんな……」

シュミットの言葉に、ゾーイはがっくり頭を垂れた――