翌日。昨夜、私たちはそのままカラオケに行って夜遅くまで起きていたからか、起きたのはお昼だった。
 お父さんはもう仕事に行っていて冬馬も塾に行っていたから家にはお母さんと葉月、私だけだった。
「雪菜ー?ちょっと買い物行ってきてくれない?」
1階からお母さんの呼ぶ声が聞こえて私はヘッドホンを外し1階に降りた。
 お母さんは台所でお昼ご飯を作っていた。
 葉月はおそらく洗面所で髪のセットでもしているのだろう。
「え、買い物?雪、今勉強中だから無理。葉月に行ってもらってよ。」
 勉強中って言うのは嘘だけど、面倒くさいし行きたくない。葉月が急いで行ってくればいいと思う。
「葉月、今から友達と出かけてくるって言って、準備してるの。近くのスーパーで牛乳買ってきて欲しいだけだから。」
「えー、しょうがないなぁ。」
そう言って私はゆっくりと部屋へ行って準備をした。

 「じゃ、行ってくるねー。」
結構経って準備が終わった。別に時間制限とかはないからゆっくりと準備をした。
「ちょっと待ってよ、雪姉。私も一緒に出る。」
葉月は準備を始めてから20分ほど経っているけど全く焦っている様子がない。
「なら早くしてよ。雪、勉強したいから。」
葉月は今でも私のことを雪姉と言っていて私も未だに家で自分のことを雪と呼んでしまう。早く直したいと思ってもやっぱり無理だ。
「準備できた。行こう。」
台所からお母さんが行ってらっしゃいと言い、私は行ってきますと返す。
 外に出ると熱気が押し寄せてきて息をするのも嫌なくらいもわっとした空気が立ち込めていた。
 信号のところで葉月と別れ、スーパーへと歩いていく。
 すると、スーパーより少し行ったところに辛そうにしている高校生くらいの男子がいた。
「大丈夫ですか?」
なんか心配で小走りに近づいていく。
 その男子は私の方を振り向いた。マスクをしていて辛そうに息をしている。
「どこに行くのか教えてくれたら一緒に行きます。」
いてもたっていられなくてそう言った。
「あ、家に帰るだけなんですけど、じゃあお願いしてもいいですか?」
 喋り方はそこまで辛そうでもなくてバツが悪そうに微笑んだ。
「はい。倒れたら困るんで、横歩いてますね。」
 何も話さなかった。息が荒かったし、話しかけたらもっと辛くなるだけだろうと思った。
 でも、それでも気まずくもならなかったし、お互いに落ち着いた雰囲気だった。
 「ここです。もう大丈夫ですから。」
しばらく歩いて男子はそう言った。大きなマンション。エレベーターはついていそうだった。
「わかりました。体、お大事に。」
私はそう一言言い、来た道を戻ろうと背を向けた。
「ありがとうございました。そちらも体調、気をつけて。」
 振り向くと素敵に微笑んだ男子が目に入った。名前も知らないし、事情も知らないけど、優しい人なんだなって思った。
 当たり前のことを当たり前に言っただけかもしれないけど、何だかすごく心が温まった。
 私は小さく礼をして来た道を戻った。

 突然だった。スーパーにつき、牛乳が売っているところに行く途中。
 突然、視界が真っ暗になった。ちょっとずつぼやけて、地面が傾いた。それが地面が傾いたんじゃなくて私が傾いていたことに気づいたのは腕を強く打ってから。
 私は意識を失った。