今日は部活を見学した。流石に倒れたのに部活をやる気はなかったし、保健室に行った人に部活をさせてくれるほど優しい顧問ではない。帰ろうかとも思ったけど、帰ったらお母さんやお父さんに何か言われそうだったから、見学することにした。
 「新原、大丈夫なのか?」
練習も終盤になった時、顧問の原内先生が近づいてきた。
 終盤になって声をかけてくるのは先生がそういうシャイな性格だからだ。
「はい、今はもう大丈夫です。」
私は立ち上がってそう言った。別に嘘ではなかった。ただ、全て本当のことでもなかった。身体的には全然大丈夫だけれど、精神的には1ミリの余裕もなかった。
「そうか、明日から練習できそうか?」
「はい、できます。明日の体調にもよりますけど。」
そう言うと、先生は頷いただけで背を向けた。
「あ、無理するなよ。」
それが厳しい顧問から言われた、1番優しい言葉だった。


「ただいま。」
「雪菜、保健室の先生から連絡あったよ。倒れたって。」
18時半に家に帰るとお母さんが出迎えながらそう言った。
「大丈夫なの?」
「うーん、たぶんね。大丈夫だと思う。」
みんなそう聞く。大体の人が「大丈夫?」とか「無理しないでね。」とか言ってくる。大丈夫なら倒れたりしないし、部活を休んだりしないし、保健室にも行ったりしない。
 だから大丈夫とか聞くのやめて欲しいと思う。
 大丈夫と言ったら言ったで「ほんとに?」とか聞いてくるし、正直少し迷惑だ。
 無理をしないって言ってもこっちは無理してるつもりなんかない。
 いきなり視界が真っ暗になって倒れて。ストレスもためてる訳じゃないんだけどなぁと思う。
 学校でストレスなんかたまらないし、たまったとしても部活で発散している。
 無理してない人に無理しないでねって言われてもどうしようもない。
 でも、みんなは気がつかない。それがストレスなんだよって言いたい。
 みんなは心配してくれてるんだから言えるわけないけど。
「そう。ダメだと思ったらすぐ言ってよ?」
「うん。わかった。」
私は端的にそう答えるとすぐ自分の部屋に入った。ドアを閉める。
 思ったより大きな音がしてしまったなんて考えながらドアにもたれかかった。
 もう何が何だか分からない。
 大丈夫なのは事実だ。
 倒れたのも事実だ。
 ストレス、暑さ。どれを考えてもそういう感じではなかった。
 よく分からなくて天井を仰ぎみる。
「大丈夫じゃないよ。助けてよ。怖いよ。」
小さな声でそう言うと無意識に涙が零れ落ちた。
 涙にも気がつかないくらいに頭がいっぱいいっぱいだった。