「新原(にいはら)さん?大丈夫?」
 目が覚めるとそこは病室で養護教諭の田村(たむら)先生が私の顔を覗き込んでいた。起きた時には息苦しさも痛みもなく、治っていた。
 「新原さんね、体育の授業中に倒れちゃったみたい。きっと暑さにやられちゃったんじゃないかなあ。今日は暑いしね。それに新学期になってから忙しかったし、ストレスかな。それより、体調はどう?」
「だいぶマシになりました。長袖長ズボンじゃない方がよかったですかね。」
私は言った。
 田村先生はうんうんと頷きながら仕切りのカーテンを開けてくれる。チラリと見た時計は11時15分を示している。
 「教室戻れそう?それとも家帰る?」
田村先生が保健室カードを書きながら私に聞いた。
「教室戻ります。」
短く答え、靴を履く。
「あ、ちょっと待って。言い方悪かったかな。今は、授業の真っ最中だから、もう少し休んでて。給食時間になったら戻ろうね。」
 確かに今戻ったら授業の真っ最中で少し気まずくなるかもしれないし、また痛くなった時に迷惑をかけてしまう。
 私は「はい。」と答えてもう一度ベッドに座った。
「あ、無理して寝なくてもいいからね。こっちに座っててもいいし。」
 田村先生はそう言って保健室を出ていった。恐らく職員室で何かすることがあるのだろう。
 私は先生の言うとおり椅子に座った。
 誰もいない静かな保健室は泣きたくなるほど寂しかった。


 私は給食準備が始まる少し前に教室に戻った。4時間目は担任の先生の担当教科だったのもあってもう授業は終わってたみたいだった。
 「おお、新原。大丈夫なのか?」
 「はい」と保健室カードを渡しながら言う。
 「それはよかった。無理するなよ。」
お礼を言いながら机へ向かうと、クラスメイトたちがたくさん話しかけてきた。
「大丈夫だよ。迷惑かけちゃってごめんね。たぶん暑さにやられちゃったんだと思う。」
そんな言葉を口にしながら給食準備を始めた。
 昼休み、美和と鈴ちゃんと一緒に話した。
 きっと、話が広まっていたんだろう。少し不安な顔だった。
 でも、何も聞いてこなかった。いつも通り他愛もない話をして、クラスで面白かった話をして、笑いあって。
 気遣ってくれてとても感謝している。でも、それと同時にもっと色んな話がしたかった。
 自分たちの気持ちを正直に話して、ぶつかり合って、気遣いも何も無い、遠慮も何も無い友達同士になりたい。
 そう思って、美和と鈴ちゃんの気遣いに少し腹が立った。