「2人がかつて恋人同士なら、何故さっさと結婚しなかったのでしょう?」

疑問に思った私はランス王子に尋ねてみた。

「それがね、2人が出会った頃から、すでにリーゼロッテの家にはキナ臭い噂があったからさ」

「その噂って……」

「実はリーゼロッテは両親をそそのかしてガーランド王国を攻めるように国王に提言してくれと訴えたらしいんだ」

「……は?」

何だろう? 私の空耳だろうか?

「あの……もう一度仰っていただけないでしょうか?」

「うん、いいよ。リーゼロッテは『ソマリ』という小さな国の侯爵家の娘だったんだけど、その国王の娘が彼女の母親なんだ。つまりリーゼロッテは国王の孫娘なんだよ。彼女は15歳の時に両親と一緒にガーランド王国に行ったことがあり、その時偶然出会ったサミュエル王子に恋してしまったそうだ」

「なるほど……それで?」

「彼女は両親に将来サミュエル王子と結婚させてくれとお願いし……娘に甘い両親はガーランド王国に直接申し入れた。……けれど、答えはノー。哀れなリーゼロッテは15歳で失恋してしまった」

「そうなんですか?」

まさかリーゼロッテがサミュエル王子に失恋していたとは……。

「それでリーゼロッテはサミュエル王子を恨み、両親に訴えたんだよ。自分を馬鹿にしたあの国を攻めてくれって」

「何と、それは随分極端な話ですね」

「そこでリーゼロッテに甘い両親は国王に提言し、孫娘に甘い国王は彼女の要望を受け入れ挙兵の準備をしていた。そして丁度その頃さ。リーゼロッテとアレックスが知り合ったのは。リーゼロッテの両親は万一の為に彼女をこの国に逃がしたんだよ。彼女はこの城の侍女と言う身分で身を隠していて、その時にアレックスと恋仲になったのさ」

「だからランス王子は詳しい話を知っておられたのですね?」

「ああ、そうさ。だけどソマリ国が挙兵する前に、ガーランド王国の内通者がいて戦争を仕掛けていることがばれたらしい」

「そうだったんですか!? でも何故?」

「それはね、リーゼロッテがずっと失恋した事を根に持ち、サミュエル王子に恨みつらみの手紙を送りつけていたのさ。しまいには内容がエスカレートしてきたらしい。そこで念の為にガーランド王国は内通者をソマリ国に派遣したんだよ」

「はぁ……」

何ともスケールの大きな話だ。

「それで、実際に挙兵の準備を始めていることが分り、先にガーランド王国が奇襲をかけたのさ。それであっという間に城は包囲されてソマリ国はあっさり降伏したんだよ。でもそのおかげで、互いの国で死傷者はゼロだったらしい」

「あっけない結末でしたね……」

「そうだよ、結局ソマリ国は滅亡し、リーゼロッテ一族と国王一族は捕虜としてガーランド王国に捕らえられたんだ。勿論最初にそそのかしたリーゼロッテも例外なく捕らえられたけど未成年だし、女性だから害はないだろうと見做されて彼女だけ解放されたんだよ」

「そうだったんですね……だからアレックス王子はサミュエル王子の事を目の敵に……」

「そうなんだよ。それで今度はアレックスの話になるんだけど、リーゼロッテにべた惚れだったアレックスはガーランド王国から彼女が解放されたら絶対に自分の妻にすると言って聞かなかった。だけど、そんな前科のある女性を我が国としては王子の妻に迎える訳にはいかない。それで色々な国の姫君を探してオーランド王国の姫に目を付けたのさ。君の国は鉱石が掘れる事で有名だったからね。だけど勿論アレックスは猛反発したよ。けど王命には逆らえないからね」

「あの。では結婚に当たり、迎えに来なかったのも結婚式に出てこなかったのも、式を挙げる前に私の方から取り下げにして貰いたかったからなのですか?」

「勿論だよ。だけど普通の女性ならとっくに泣いて逃げ出すのに君は平然と構えている。アレックスの目論見は見事に失敗してしまったんだ」

「なるほど……。何故アレックス王子がそこまで私とミラージュに対して当たりが強いか、ようやく分りました」

私はアレックス王子とリーゼロッテの様子をじっと見つめた――