「あの~……一体どうされたのですか?」

温室の傍には噴水が美しい庭園がある。ランス王子に庭園の中、手を引かれながら歩いていると、ふいに彼は植え込みの傍で私の手を引いたまましゃがみ、足元がグラリと傾く。

「わっ!?」

バフン!

「「……」」

ランス王子の顔面に自分の上半身を乗っけてしまった。キャア~ッ!! わ、私ッたら……な、何て事を……っ!

「あ、あの……」

慌ててランス王子の肩に両手を置き、体を起こす。するとランス王子は神妙そうな顔で小声で囁いてきた。

「ごめん、いきなりしゃがんで……大丈夫だった?」

ランス王子が小声だったので、私も小さな声で返事をする。

「は、はい……。大丈夫です。それより大変失礼な事をして申し訳ございませんでした」

「いや、役得だったと思うけどね?」

意味深な顔で笑みを浮かべたので、思わずこっちが赤面してしまいそうになった。それをごまかす為にランス王子に尋ねた。

「あの、ところでこんな場所でまるで隠れるような姿で一体何をしているのですか?」

するとランス王子は斜め右側をそっと無言で指さした。

「あ」

ランス王子が指さした方向には大きな木の下でまるで隠れるようにシートを敷いて座るアレックス王子とリーゼロッテの姿があった。よく見ると2人ともサンドイッチを食べている。シートの上には大きな蓋付きのバスケットが置かれ、ご丁寧にお茶のセットまで置いてある。

「……どう思う、あれ……」

ランス王子が尋ねてきた。

「はい、そうですね。何のサンドイッチを食べているのか具材が気になる所です」

大真面目に答えた。
すると何故かランス王子は私を複雑な目で見つめてきた。

「あの……どうかしましたか?」

「あ……いや。あの2人を見て、まさかサンドイッチの具材を気にするとは思わなかったから」

「あ、別にそれ以外にも気になりますよ? 何故私のメイドとアレックス王子が一緒にいるのかなと」

「そう、そこなんだよ。普通の女性ならまずはそこを気にするべきなのに」

そしてランス王子は溜息をつくと私をじっと見つめた。

「何て可哀想なんだ……レベッカ。嫁いできたのに迎えも無し、おまけに結婚式に新郎は不在。初夜もすっぽかされ、肝心のアレックスは別の女性と床を共にし、その後も別の女性に手を出したり。そのせいで感覚がおかしくなってしまったんだね? 僕がアレックスだったら君だけを大切にするのに」

うん? 何故私がアレックス王子に初夜をすっぽかされた話を知っているのだろう?

「あの、何故私がすっぽかされた話を知ってるのですか?」

「え? レベッカ。君は知らなかったのかい? 当時アレックス王子と床を共にしていた女が城を出された時に腹いせで使用人たちに言いふらして行ったんだよ? 王子は花嫁の元へはいかず、私と床を共にしたのに追い出すなんて酷い男だと」

何とっ! そんな捨て台詞を残して城を出て行ったとは……それにしても私まで巻き込むのはやめて欲しい。そんな恥ずかしい事を。

「そう、だけど今の君の呼び名は凄いものだよ? 『奇跡の無垢な白い乙女』なんて言われてるんだからね?」

「え!? な、何ですかっ!? その恥ずかしい呼び名は!」

「シー、静かに。あの2人に僕たちの会話が聞こえてしまうかもしれない」

「は、はい」

結局……アレックス王子とリーゼロッテの関係は何なのだろう? 何だか今までの遊びの浮気とは違う気がするのだけど……。ランス王子の話は続く。

「だからアレックス王子もリーゼロッテも焦っているのだろうね? もはや君はこの城の中で『奇跡の無垢な白い乙女』と呼ばれ、この城に住む人々全員に知られているからね?」

「はあ……。でもランス王子。何故リーゼロッテの名前を知っているのですか?」

「そんなのは当然だよ。何せ彼女はかつてアレックス王子の恋人で国を失った元侯爵令嬢だったのさ。彼女の国はね、ガーランド王国に楯突いて戦争を起こし、逆に国を滅ぼされてしまったんだよ」

「あ……そうだったのですか?」

成程。今までアレックス王子が何故私とミラージュに対して、対応が酷かったのか……何となく謎が解けた気がする――