「あ、お帰りなさいアレックス様。いつお戻りになられたのですか?」

ガバッと立ち上がり、アレックス王子に駆け寄るとエプロンドレスに着いた汚れをパッパッと手で払いながら挨拶した。

「ぶわっ! 人の傍で汚れを払うなっ! ほんっとうに相変わらずガサツな女だなっ!? お前はっ!」

肘で口元を覆うアレックス。すると……。

「な……なんですって! またしてもアレックス王子はレベッカ様に失礼な事を……っ!」

怒りに燃えて立ち上がったミラージュを見てアレックス王子は大げさに驚いた。

「うああああっ!? な、何だよっ! お前もいたのかっ!?」

「当然ですっ! 私とレベッカ様は一心同体! レベッカ様のいる場所こそが私の居場所なのですっ!」

「ミラージュ……」

思わずミラージュの言葉に感動しているとアレックス王子が喚いた。

「あーっ! 鬱陶しい奴らだっ! 俺はお前たち2人の陳腐なやり取りを見に来たんじゃないっ! お前に用があるから帰国後、すぐに人づてに居場所を聞いて温室にいるからと言われてやってきたのだっ!」

「え? それではわざわざ私に会いたくてここまで足を延ばしてくれたのですね?」

感動だ……。ようやくアレックス王子は私の事を大切に思うようになってくれたんだ……。

思わずじ~んとした目で見つめていると、アレックス王子は心底嫌そうな目付きで私を見た。

「何だ……何なんだ? お前のその視線は? そんな目で俺を見るな。気色悪い」

気色悪いと言われてしまった。流石にちょっと凹むかも。

「まあっ! レベッカ様程の美少女に気色悪いなどど……っ!」

「うわあっ! お、お前……まだいたのかっ!?」

びくつくアレックス王子にミラージュに言った。

「当然ですっ! 先程からずっといました!」

すると、ついに我慢できなくなったのかアレックス王子は上着を脱ぎ捨てた。

「あー! もうっ! ここは暑くてたまらん! 外で話をするぞっ! ついて来いっ!」

全身汗まみれになりながらアレックス王子は何と私たちに顎でしゃくって命令してきた。相当暑さでイラついているのだろう。ここは大目に見てあげよう。
何しろこの温室の中は気温が25度もあるのだから。ここで上着など着ていれば汗だくになっても無理はない。

「確かにアレックス様の服装では暑いかもしれません。ほら、私とミラージュの服装を見てください。半袖のワンピースにエプロンドレス。アレックス様も今度温室に足を運ぶ際は私たちのような服装で来ることをお勧めますよ?」

「この馬鹿! 男がワンピースなんか着れるはずないだろうっ!?」

アレックス王子は温室を出た直後に私を振り向くと怒鳴りつけた。

「あ! またレベッカ様を馬鹿呼ばわりしましたねっ!?」

途端にミラージュが睨みをきかせ、アレックス王子はビクリとする。

「え……? いやですねぇ~アレックス様にワンピースを勧めるはずないですよ~。ただ半袖を着てきた方が良いですよ? って言いたかっただけですから」

思わず笑うと、アレックス王子はムスッとした。

「だったら紛らわしい言い方をするな。勘違いしてしまうだろう?」

「あの、ところでどちらへ行かれるのですか?」

何だか中庭へ向かっている気がする。

「中庭だ」

「何故、中庭へ連れて行くのですか?」

ミラージュが棘のある言い方で尋ねた。

「そ、それは……会わせたい人がいるからだ」

何故か口ごもるアレックス王子。

「会わせたい人……?」

口の悪いアレックス王子にしては、妙に丁寧な言い方をする。

「どなたですか? 会わせたい人とは」

「お前の為に選んで連れて来た専属メイドだ」

え……?

そしてアレックス王子は足を止めた。

すると前方にどこかで見覚えのあるパラソルを差し、長いドレスを着た女性がガゼボの前で風に吹かれながら立っていた――