「よし! お前たち! この王子の乗って来た馬車へ行って金貨を運んできなっ! 馬車は宿屋の裏手の厩舎の馬小屋の中にあるはずだっ!」

アマゾナの掛け声に3人の手下たちは歓声を上げ、宿屋に向かって駆けていく。そしてその場に残されたのは私と、アマゾナ……そして草むらに倒れて、まるでゾンビのような姿になったアレックス王子。

私は足元に倒れているアレックス王子を見下ろして顔をしかめた。何故ならアレックス王子からは強烈な匂いが放たれているからだ。何というかこう……ハチミツの独特な匂いと、そして動物臭をまき散らしハエのたかっている姿は夢にまで出てきそうだ。私が思い切り嫌そうな顔つきでアレックス王子を見ていることに気付いたアマゾナが話しかけてきた。

「どうだい、お嬢ちゃん。この男の無様な姿を見た感想は?」

「そうですね……最初はスカッとしましたけど今は……」

少しやり過ぎだっただろうか? 仮にも相手は私の夫であり、王族なのに……。

「やり過ぎだったと思っているのかい?」

突然アマゾナが話しかけてきた。

「え? あ……まぁ……多少は?」

笑ってごまかすとアマゾナが神妙な顔つきになった。

「我慢出来なかったんだよ。あんたに対するこの男の態度が……! 私はね、女を粗末に扱う男が一番許せないのさ!」

吐き捨てるように言うアマゾナ。そこへアマゾナの手下たちが重そうなボストンバックを持って戻って来た。

「長! 金貨を見つけてきました!」

手下1がアマゾナの足元にボストンバックを置くとカバンを広げた。その中にはキラキラと眩い光を放つ金貨がぎっしり詰まっていた。

「おおっ!」

アマゾナが目をキラキラさせた。へぇ~……アレックス王子……こんなに沢山の金貨を持ち歩いていたんだ。

「よし、それじゃ半分だけ奪って後は残しておきな!」

え? 全部盗むんじゃなかったの?

すると手下たちは返事をすると、本当にほぼ半分の量の金貨だけを自分たちが用意した麻袋に入れ、手下2がその袋をかつぎあげた。

「それじゃ長っ! 隣の村に行ってこの金貨届けてきますねっ!」

え? 届けるって……どういう事?

「おう! よろしくな! そうそう……いつも通り食料も届けてやるんだよっ!」

笑顔で答えるアマゾナ。
え? 食料? ますます訳が分からない。

「「「はい!!!」」」

手下たちは再び村の方へと戻って行った。私はそんな彼らの去って行く後ろ姿を茫然と眺めていると、アマゾナが話し始めた。

「実はね……この私たちの村の近隣にいくつか村があってね、その中の一つに女子供しか住んでいない村があるんだよ」

「え? 事ですか?」

「その村はね、自分の夫から理不尽な目に遭わされて、子供を連れて逃げた女たちばかりが住む村なのさ。彼女たちは皆小さな子供を抱えているから暮らしぶりが大変でね」

「まさか……それで……?」

「ああ。だから私たちがその村の面倒を見ているのさ。……もっともやっている事は盗賊なんだけどね」

私は何と返事をすればよいか分からなかった。だけど……所詮は犯罪行為。

「実はね、今その村だけで自活出来るように畑の手伝いに行ったり、織物の仕事の手伝いに手下たちを行かせてるのさ。彼女たちが自分たちだけで生活を維持できるようになれば、こんな事は今すぐやめるさ」

「え?」

「まぁ、あんたもこんな男の傍で暮らすのが嫌になったら、いつでもここに来ればいい。面倒見てやるからさ?」

そして私の背中をバンバン叩いた。う……そ、そんな話を聞かされたら彼女たちを成敗する事なんて私には出来ない。それどころか助けてあげたくなった。

これ以上盗賊家業なんてしなくて済むように、私の力を使おうと――